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腎疾患の糸球体障害、発症機構解明に重要な受容体タンパク質発見-東工大ほか

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2024年06月26日 AM09:20

血中タンパク質などのろ過機能を担う糸球体ろ過障壁、複雑な仕組みの全容は未解明

東京工業大学は6月20日、受容体タンパク質の一種であるADGRF5が、腎臓で尿を作るために必要な血液ろ過フィルターである「糸球体ろ過障壁」を維持し、働き続けるために必要であることを突き止めたと発表した。この研究は、同大生命理工学院生命理工学系の中村信大准教授、杏林大学医学部の長瀬美樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Society of Nephrology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトの腎臓は1日に150リットルもの血液をろ過して尿を生成している。糸球体でろ過された血液成分の約99%は水分、栄養素、ミネラルなど体にとって必要なものであるため、尿細管で血液に戻され(この作業を再吸収と呼ぶ)、最終的に残されたものが尿として排泄される。つまり、糸球体は血液成分を必要なものと不要なものとを区別せずに一度にまとめてろ過してしまい、その後で尿細管に必要な血液成分の回収をまかせていることになる。ただし、糸球体では血中の細胞とタンパク質はろ過しない。これを可能にしているのが糸球体ろ過障壁である。糸球体ろ過障壁は、糸球体内皮細胞とポドサイトの2種類の細胞と、これらの細胞に挟まれた糸球体基底膜の3層でできており、他の血管壁にはない非常にユニークな構造をしている。ポドサイトが形成する分子ふるい構造(スリット膜)と、基底膜や糸球体内皮細胞が持つ陰性荷電が連携して、血中の細胞やタンパク質が血管の壁を通り抜けるのを防いでいる。

多くの腎疾患では、糸球体ろ過障壁に障害が認められるが、糸球体ろ過障壁が壊れるとバリア機能が低下して血中の細胞やタンパク質が漏出してしまう。その漏出量が多量になると、尿細管には多量のタンパク質を再吸収する能力はないため、血液中のタンパク質の濃度が下がり、浮腫(むくみ)などの症状を引き起こす(低タンパク血症)。また、漏出した細胞やタンパク質が糸球体や尿細管を損傷して、さらに腎機能を低下させる悪循環を引き起こす。従って、糸球体ろ過障壁がどのようにして形作られて維持されているのか、その障害がどのようにして引き起こされるのかを明らかにすることは、腎疾患の原因解明および予防法や治療法の確立のために重要な課題といえる。それらの仕組みを解明しようとする研究がこれまでに数多く行われてきたが、糸球体ろ過障壁の非常に複雑かつ精緻な3層構造が解析を困難にさせていることもあり、全容解明に至ってはいない。

患者糸球体で発現低下のADGRF5に着目、欠損マウスの糸球体ろ過障壁で構造異常発生

研究グループは、データベース解析から糖尿病性腎症の患者の糸球体におけるADGRF5の発現量が健常者の場合と比較して低いことを見出し、ADGRF5が糸球体の機能に重要な役割を果たすのではないかと予想した。ADGRF5は、Gタンパク質共役型受容体の一種で、これまでに、肺で作られる肺サーファクタント(息を吸うときに肺胞が膨らんで空気が入りやすくする働きのある物質)の量の調節や、脂肪細胞による血中グルコースの取り込みの調節などに関わっていることが報告されている。

そこで、まず、ADGRF5が糸球体ろ過障壁を構成する糸球体内皮細胞に存在することをマウスの腎臓サンプルを用いて明らかにした。次に、糸球体ろ過障壁におけるADGRF5の機能を探るために、ADGRF5を失った遺伝子改変マウスの糸球体の構造に変化がないか顕微鏡観察を行って解析した。その結果、ADGRF5欠損マウスでは糸球体が大きくなっており、さらに、糸球体ろ過障壁が壊れている様子が観察された。具体的には、糸球体内皮細胞が基底膜から剥がれ、基底膜の断裂や肥厚といった明確な構造異常が起こっていた。

、糸球体内皮細胞で基底膜の構成分子などの遺伝子を調節

また、尿や血液の生化学検査によって、ADGRF5欠損マウスではアルブミン尿や腎機能の低下が生じていることもわかった。一般的に、受容体タンパク質は細胞外部の特定の刺激を受け取ると、その情報を細胞内部に伝達して遺伝子やタンパク質の働きを調節することで外部刺激に対する細胞応答を促すスイッチのような役割をする。

そこで、ADGRF5が糸球体内皮細胞でどのような細胞応答に寄与するのかを調べるために、ヒトやマウスの糸球体内皮細胞の初代培養細胞に対して人為的にADGRF5の発現を抑制したところ、基底膜の構成分子(IV型コラーゲン)の遺伝子発現量の低下や血管機能の調節分子(KLF2)の遺伝子発現量の上昇が起こることを明らかにした。これらの結果から、ADGRF5が糸球体内皮細胞における遺伝子の働きを調節することで、糸球体ろ過障壁の構造とろ過機能を正常に保つ働きをしていることが示された。

糸球体障害発症メカニズム解明につながると期待

多くの腎疾患で糸球体障害が起こることが認められる。糸球体は一度壊れると再生できず、その機能を失ってしまう。従って、病気が進行すると腎機能が徐々に失われていき、自分の腎臓では生命を維持することができなくなるため透析療法や腎移植といった治療を受ける必要がある。多くの場合、糸球体障害の原因や発症メカニズムが不明であるため、根本的な治療法が確立していないのが現状である。「本研究で明らかにした新たな糸球体ろ過障壁の維持機構は、糸球体障害の発症メカニズムの解明への手掛かりとなり今後の研究の進展に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。

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