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冠攣縮性狭心症、日本人大規模GWASで疾患感受性領域と予後の関連判明-理研ほか

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2024年06月25日 AM09:10

発症に遺伝的要因も指摘される「」、完全な病態は未解明

理化学研究所()は6月19日、日本人の「冠攣縮性狭心症」を対象にした大規模なゲノムワイド関連解析()を行い、冠攣縮性狭心症の病態に関わる重要な疾患感受性領域(遺伝子座)を同定したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームリーダー(静岡県立総合病院免疫研究部長、静岡県立大学特任教授)、循環器ゲノミクス・インフォマティクス研究チームの伊藤薫チームリーダー、ファーマコゲノミクス研究チームの曳野圭子研究員、莚田泰誠チームリーダー、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻の小井土大助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Cardiology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

狭心症は、心筋へ血液を供給する冠動脈が詰まりかけたり狭くなったりすることで発症する。「冠攣縮性狭心症」は、その狭心症の一種であり、冠動脈が発作的に過剰な収縮を起こしてしまう状態のことである。中には、血液の供給が途絶えることによる心筋梗塞、重症の不整脈、突然死など、重篤な合併症を引き起こすこともある。以前は東アジア人に多いといわれていたが、最近では、東アジア人以外でも東アジア人と同じくらいの頻度で起こっている可能性が示され、注目されている。

冠攣縮性狭心症は病態がまだ完全には解明されておらず、発症には遺伝的要因も指摘されている。これまでの遺伝子解析では少人数による解析や遺伝子のターゲットを絞った解析が行われたが、大規模なGWASは実施されていなかった。そこで研究グループは、バイオバンク・ジャパン(BBJ)に登録されている約16万人のデータを対象に大規模なGWASを行って、冠攣縮性狭心症の発症に関わる疾患感受性領域(遺伝子座)を探索し、さらにその変異を有する集団の長期的予後を調べた。

患者5,192人含むGWAS実施、17番染色体に東アジア人特異的な感受性領域同定

研究グループは、冠攣縮性狭心症患者に特徴的な遺伝的変異を網羅的に検出するため、BBJの登録者のうち、冠攣縮性狭心症患者群5,192人と対照群14万3,964人を対象に、世界でも最大規模となるGWASを行った。

解析の結果、ゲノムワイド有意水準を満たす、東アジア人に特異的でまれな疾患感受性領域(オッズ比2.18、p=2.0×10-18)を同定した。同定した東アジア人に特異的でまれな疾患感受性領域は第17染色体におけるRNF213遺伝子上のミスセンス変異であり、冠動脈疾患全体での既報のGWASでの関連性は示されていた。今回、この変異が冠攣縮性狭心症に強い影響をもたらすことで、冠動脈疾患(冠攣縮性狭心症を除く)と冠攣縮性狭心症は、異なる病態を示している可能性が示唆された。

患者データを二分した解析でも、追加データ用いたGWASでも同領域を同定

BBJ登録者の冠攣縮性狭心症患者群を二つのデータセットに分けて、GWASを行った。それぞれのデータセットにおいて、第17染色体におけるRNF213遺伝子上に疾患感受性領域を同定した(一つ目:オッズ比2.0、p=1.2×10-10、二つ目:オッズ比2.7、p=2.7×10-10)。さらに、追加のデータセットを用いたGWASにおいても(冠攣縮性狭心症528人と対照群9,900人)、同領域が同定された(領域中の最小オッズ比4.0、p=1.8×10-10)。

RNF213遺伝子上ミスセンス変異、男性・若年ほど強く影響

また、RNF213遺伝子上のミスセンス変異は、性別や年齢に関係なく冠攣縮性狭心症に関連していることがわかった。中でも、女性よりも男性に強く影響し、若いほど強く影響していた。この違いが、男女における冠攣縮性狭心症の罹患率の差に影響している可能性や、冠攣縮性狭心症が他の冠動脈疾患と比較して低い年齢において発症することにも関係している可能性を示唆している。

急性心筋梗塞で死亡の割合、変異のある集団で有意に上昇

今回の研究で同定されたRNF213遺伝子上のミスセンス変異は、もやもや病の原因遺伝子として広く知られていることから、この研究結果に対するもやもや病の存在の影響も検討した。その結果、冠攣縮性狭心症ともやもや病の合併症例数や、もやもや病の疾患感受性領域を考慮した解析結果から、その可能性は低いことが示された。

最後に、このRNF213遺伝子上のミスセンス変異を有する集団の長期的予後を調べたところ、ハザード比が2.7の強さで、急性心筋梗塞で死亡する割合が有意に上昇していた。これらの結果から、RNF213遺伝子上のミスセンス変異が、それを有する集団の予後の予測因子となる可能性が示された。

遺伝子変異介した発症メカニズム解明、治療法・予防法開発の貢献に期待

今回の研究では、冠攣縮性狭心症の大規模GWASによって、強い効果量を有する冠攣縮性狭心症の疾患感受性領域を同定した。また、同領域と将来的な急性心筋梗塞による死亡率が大きなハザード比として関連していることが示された。

冠攣縮性狭心症の人の中でも、この多型を持つ人は数十人に1人だが、今後、冠攣縮性狭心症発症との関連が明らかになった遺伝子変異を介した発症メカニズムを解明することで、冠攣縮性狭心症に対する新しい治療法や予防法の開発に貢献できるものと期待できる。「本研究は基礎研究段階にあり、今後、臨床のエビデンスを積み重ねていく必要がある」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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