両側性前庭神経鞘腫を主徴とする遺伝性疾患、治療法開発が求められる
慶應義塾大学は6月12日、神経線維腫症2型(NF2)の腫瘍が血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)を高発現していることに着目し、新たな治療法としてVEGFRペプチドワクチンを開発、第1/2相臨床試験を実施した結果を発表した。この研究は、同大医学部脳神経外科学教室の戸田正博教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Oncology」オンライン版に掲載されている。
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NF2は、両側性前庭神経鞘腫を主徴とする遺伝性疾患。若年より聴力が障害され、進行が早く10年生存率は67%と報告されている。内耳から脳へ情報を伝える前庭神経以外にも無数に神経鞘腫を生じ、髄膜腫や上衣腫等の腫瘍も併発する。NF2は極めて難治性の希少疾患で、手術では神経損傷の可能性が高く、多発腫瘍に対して積極的に手術を行うことはできない。放射線治療は一定の成績を示しているが、大型の腫瘍には適応されず、多発腫瘍を制御することは困難で、悪性転化のリスクも報告されている。そのため、新たな治療法の開発が求められている。
ベバシズマブの有効性確認、VEGFR標的ペプチドワクチン開発に着手
近年、NF2の神経鞘腫は血管新生因子であるVEGF-Aを高発現しており、その分子標的薬ベバシズマブの有効性が示された。研究グループは、NF2の神経鞘腫では、血管内皮細胞のみならず腫瘍細胞にVEGFRが高発現していることから、VEGFRを標的とするペプチドワクチンの開発に着手した。このペプチドワクチンによって誘導された細胞傷害性T細胞(CTL)は、VEGFRを発現している標的細胞を破壊し、かつ体内でCTLが持続するため、長期効果が期待される治療となる。
16例でVEGFR特異的なCTL良好に誘導、多くの患者で腫瘍増大を制御
今回、探索的臨床試験「進行性神経鞘腫を有するNF2に対するVEGFR1/2ペプチドワクチンの第1/2相臨床試験」を実施した。その結果、ペプチドワクチン投与が終了した16例において、同ワクチンに関連する重篤な合併症はなく、VEGFR特異的なCTLが良好に誘導され、多くの患者で腫瘍増大が制御された。
今後、多施設共同無作為化二重盲検比較試験を実施予定
今後はプラセボ群を対照とした多施設共同無作為化二重盲検比較試験を行う予定だ。VEGFRペプチドワクチンは、特定のヒト白血球抗原(HLA)の型に対して効力を発揮する。医師主導治験は、まずHLAA*2402型の患者に行う予定だとしている。
難治性良性腫瘍に対するVEGFRペプチドワクチンの有効性を示すことができれば、既存の治療概念を変えることも期待される。NF2は希少疾患であり、治療薬開発に焦点が当てられる機会は多くない。難治性NF2の患者に、一刻も早く新しい治療薬を届けられるよう、今後も一層尽力していく、と研究グループは述べている。
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