真菌に対する新たな治療標的の発見と、それを標的とした薬剤開発が求められている
帝京大学は6月14日、水虫の原因真菌である白癬菌の菌糸成長に必要な分子を特定し、その阻害剤がヒトの爪における白癬菌の増殖を抑制することを発見したと発表した。この研究は、武蔵野大学薬学部薬学科の大畑慎也准教授と石井雅樹講師、明治薬科大学の松本靖彦准教授、帝京大学の医真菌研究センター 山田剛准教授との共同研究によるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。
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白癬(水虫)は、国民病とも言われ、日本人の足白癬の罹患率は21.6%と推計されており、日本の人口が1億2000万人であることから、罹患者数は2500万人以上に上ると推測される。水虫を含む真菌(カビなど)による感染症の治療薬は数が限られており、新たな治療標的の発見とそれを標的とした薬剤開発が求められている。
Cdc42の発現量抑制+Rac欠損で、顕著に培地上での成長が抑制されると判明
研究グループは今回、白癬菌の成長に必要な分子を探索するため、生物一般の細胞機能制御に必須のタンパク質である低分子量Gタンパク質に着目して研究を実施。事前の検討により、Gタンパク質Cdc42およびRacが菌糸成長を促進することが示唆された。
そこで、遺伝子組換え技術を用いてCdc42の発現量の抑制に加えてRacを欠損させたところ、野生株(遺伝子組換えをしていない元の菌株)と比べ、顕著に培地上での成長が抑制されることが判明した。
Cdc42/Cdc24の発現抑制で菌糸成長が顕著に抑制、アクチン局在異常で死細胞増加
Gタンパク質はその名にGとあるとおり、核酸のRNAを合成する基質である“G”TPと、そこからリン酸基が1つ取れた“G”DPと結合する。GTPに結合すると細胞内シグナルをONに、GDPと結合すると細胞内シグナルをOFFにする細胞内シグナルのスイッチとして機能しており、このスイッチを切り替えることで、例えば増殖のONとOFFが切り替わる。このONとOFFのスイッチの切り替えを担うタンパク質が「Guanine nucleotide exchange factor(GEF)」だ。
タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、白癬菌Cdc42およびRacのGEF(Cdc24)を特定し、その発現を抑制すると、菌糸成長が顕著に抑制されるとともに、細胞の形態や細胞の骨格タンパク質アクチンの局在に異常をきたし、死細胞が増加することが明らかになった。
Cdc42/Rac阻害が、新規の白癬菌治療薬の開発につながる可能性
さらに、化合物を用いて白癬菌Cdc42およびRacの機能を阻害することを目的に、哺乳類のCdc42もしくはRacを阻害することが知られる薬の中から、白癬菌Cdc42およびRacを阻害可能な化合物を探索した。その結果、低分子化合物EHop-016が白癬菌Cdc42およびRacを試験管内で阻害し、培地での白癬菌の増殖も抑制することを見出した。さらに、白癬菌の胞子懸濁液を爪の上に塗布し、EHop-016をさらに塗布した爪では、白癬菌の増殖が抑制されることを見出した。
以上のことから、Cdc42およびRacが白癬菌の増殖を促進すること、そしてその阻害剤を用いることで白癬菌の増殖を抑制できることが示唆された。「本研究成果により、新たな治療薬の発見につながるものと期待される」と、研究グループは述べている。
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