「CORAIL」36例と「AMIStem-H」30例を対象に比較
大阪公立大学は6月13日、従来型の大腿骨側人工関節(ステム)を使用した36例と、形状の異なる新規ステムを使用した30例の、手術3週間後、1年後、2年後のステム周りの骨密度を調査し、また、ステムと大腿骨の接触状態を、3D密度マッピングシステムを用いて測定も行い、比較検討した結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科整形外科学の大山洋平大学院生(博士後期課程4年)らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Bone & Joint Journal」に掲載されている。
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人工股関節全置換術は、変形性股関節症や関節リウマチ、外傷などによって傷んで変形した股関節を、人工関節に置き換えて関節の痛みを軽減させる手術である。手術件数は世界中で増加しており、それに伴い、合併症による再手術(再置換術)も増えている。どのような形状のステムでも、大腿骨の中に埋め込むため骨への荷重と応力分布が変化し、約1~2年でステム周囲の骨密度が急速に低下する。そして、骨密度が低下して骨がやせてしまうと、骨折や無菌性ゆるみを引き起こし、再置換術が必要になる場合がある。
1986年に開発された「CORAIL」という従来型ステムは、30年以上の非常に良好な長期成績が報告されている。このステムは、全周にハイドロキシアパタイト(HA)コーティングが施されているフルHAステムで、大腿骨の皮質骨ではなく海綿骨内に固定することによって骨密度の低下を抑える。一方、「AMIStem-H」という新規ステムは、同じくフルHAステムであるが、形状が異なり、従来型よりステム長が短いため低侵襲手術に使いやすいという特徴がある。しかし、使用開始からまだ10年余りと比較的新しいステムのため、骨密度変化や接触状態について調査されていなかった。そこで今回研究グループは、従来型ステムCORAILを使用した36例と新規ステムAMIStem-Hを使用した30例の、ステム周囲骨密度変化とステムと大腿骨の接触状態を調査した。
術後2年後の骨密度は従来型>新規、ステムと大腿骨の接触状態異なる
ステム周囲骨密度変化について、手術3週間後を基準として、1年後、2年後の計測値を利用して計算したところ、従来型ステムの手術2年後の大腿骨近位内側の骨密度は増加したが、新規ステムでは減少し、有意差が確認された(平均6.2% vs.-1.3%)。
ステムと大腿骨の接触状態については、CTを用いて3D密度マッピングシステムで測定した。その結果、従来型ステムは全体的に皮質骨との接触が少ない一方、新規ステムは遠位部(下側)で大きく接触しており、2つのステムは異なる状態であることがわかった。
長期間安定した状態で人工股関節を使用できるような技術向上につながる研究成果
今回の研究により、従来型ステムが「レジェンドステム」と呼ばれる理由の一つを定量的に示した。一方、新規ステムは遠位部で皮質骨としっかり接触していることが判明した。過去の研究で、遠位部で固定されるタイプのHAコーティング無しのステムは、さまざまな形の大腿骨に使いやすく比較的良好な成績が報告されているが、遠位部に応力が集中するために近位部の骨密度が大きく低下する(約-10%)という懸念があった。今回、従来型ステムと比べて骨密度の低下が大きいことが判明したが、過去に使用されていた遠位部で固定されるタイプのHAコーティング無しのステムよりは十分に骨密度が維持されていたため、これはHAコーティングによる効果だと考えられた。「2種類のフルHAステムの特性に関する洞察の提供により、長期間安定した状態で人工股関節を使用できるような技術向上につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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