自閉症特有のシナプス機能の変化を、自閉症モデルマーモセットで検証
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は6月11日、自閉スペクトラム症(自閉症)モデルマーモセット脳でシナプス動態変化を見出し、さらにオキシトシン投与でその変化が緩和することを見出したと発表した。この研究は、NCNP神経研究所 微細構造研究部の野口潤室長、磯田李紗研究補助員、渡邉惠室長、一戸紀孝部長ら、および理化学研究所 脳神経科学研究センター、自治医科大学らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」オンライン版に掲載されている。
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自閉症は頻度の高い発達障害で、米国において小児の36人に1人(米国疾病予防管理センター報告:2023年)、日本でも3%前後の有病率と報告されている。この数字は増加傾向にあり、今後ますます社会的な対応が必要になると予想される。
自閉症には特定の遺伝子の発現量あるいは遺伝子発現産物の機能的な変容が深く関係していると考えられている。自閉症に関連する遺伝子には、神経細胞のつなぎ目であるシナプスの構成に関わるものが多く含まれている。シナプスは記憶・学習などを担う部位として知られている。また、シナプス密度の増加やシナプス可塑性の変化、シナプスの不安定性が自閉症モデル動物で報告されるなど、自閉症とシナプス機能の変化は関係が深いと考えられる。自閉症に特有のシナプス機能の変化を見極め、それを軽減することで自閉症の行動的特徴も軽減される可能性がある。そのため、ヒトに近い霊長類である「マーモセット」の自閉症モデルを用いてシナプスの働きを調べることで、ヒトの病態の解明につながる知見が得られると期待されている。
モデルマーモセットのシナプスの生成・消去が亢進していることを確認
研究グループは2021年に、ヒトの自閉症と病態が近い自閉症モデルマーモセット(新世界ザル)を開発し、成果を発表している。今回の研究では、このバルプロ酸(VPA)曝露自閉症モデルマーモセットを用いて、大脳皮質8野の神経細胞樹状突起および周囲の軸索の構造的ダイナミクスを2光子顕微鏡で調べた。
その結果、モデルマーモセットではシナプス後部を形成する樹状突起スパインの新規生成と消去が増加し、近接(クラスター化)した樹状突起スパイン生成が対照サルと比較して生じやすく、また継続して生存しやすいことが確認された。同側の軸索の前シナプスブトンも対照サルと比較して高い頻度で生成・消去を示し、投射特異的な可塑性の変化が示唆された。
鼻腔内オキシトシン投与、モデルマーモットの「クラスター化スパイン生成」を抑制
一方、鼻腔内オキシトシン投与は、モデル群においてクラスター化スパイン生成を抑制した。このことから、オキシトシン投与は用量を最適化することや、過剰なシナプスの生成・消去を抑制する手段と組み合わせることで、自閉症に特徴的なシナプス機能が改善する可能性が示唆された。
オキシトシン投与が、自閉症の神経回路におけるクラスター化亢進を緩和する可能性
ASDモデルマーモセットで観察された樹状突起スパインと軸索ブトンの生成・消去の亢進あるいは樹状突起スパインのクラスター化した生成は、局所的な神経回路の構築に関連していると想定される。オキシトシン投与は自閉症の神経回路において、クラスター化の亢進を緩和する可能性がある。
「今後、スパイン生成・消去亢進の抑制が期待できる手段を開発して併用するなどで、オキシトシン経路はより有効なASDの治療ターゲットとなると期待される」と、研究グループは述べている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース