長距離フライト中の飲酒は心臓に悪影響を与える可能性も
飛行機に乗っている間、とりわけ長距離フライト中に飲酒すると、眠っている間に心臓の健康が脅かされる可能性のあることが、ドイツ航空宇宙センター・航空宇宙医学研究所のEva-Maria Elmenhorst氏らによる研究で示された。同研究では、飲酒と飛行機の巡航高度での機内気圧が組み合わさることで、血液中の酸素量が低下し、若くて健康な人でも心拍数が長時間にわたって上昇し続けることが示されたという。この研究結果は、「Thorax」に6月3日掲載された。
画像提供HealthDay
今回の研究の背景情報として、巡航高度で飛行中には、健康な乗客でも酸素濃度〔酸素飽和度(SpO2)〕が血中の約90%まで低下する可能性があり、それ以下になると、低圧低酸素、すなわち高高度で血中酸素濃度が低下した状態と見なされるとElmenhorst氏らは説明している。アルコールは血管壁を弛緩させ、睡眠中の心拍数を増加させる。そのため、Elmenhorst氏らは、飲酒と飛行機の機内気圧の組み合わせが睡眠中の乗客に有害な影響をもたらすのではないかと考えた。
Elmenhorst氏らは今回、18歳から40歳の研究参加者48人の半数を、通常の気圧の睡眠検査室で眠る群に、残る半数を飛行機の巡航高度での機内気圧が再現された低圧試験室で眠る群に割り付けた。睡眠を取ることができる時間帯は、午前0時から4時の間とした。研究参加者には、それぞれに割り当てられた部屋で2晩過ごしてもらったが、そのうちの1晩は、ビール2缶またはワイングラス2杯に相当するアルコール量のウォッカを摂取してから睡眠を取り、もう1晩は飲酒せずに睡眠を取った。各群とも、半数が1晩目に、残りの半数は2晩目に飲酒してから睡眠を取り、1晩目と2晩目の間には2晩のウォッシュアウト期間を設けた。
その結果、飲酒と飛行機の機内気圧の組み合わせによってSpO2が85.32%まで低下し、その代償として睡眠中の心拍数が87.73回/分まで上昇することが示された。これに対し、低圧試験室で飲酒せずに睡眠を取った人では、SpO2は88.07%、心拍数は72.90回/分であった。一方、通常の睡眠検査室で飲酒後に睡眠を取った人では、SpO2は94.97%、心拍数は76.97回/分であり、通常の睡眠検査室で飲酒せずに睡眠を取った人では、SpO2は95.88%、心拍数は63.74回/分だった(全て中央値)。
このほか、基準値を下回る血中酸素濃度(SpO2が90%未満)が続いた時間は、低圧試験室で飲酒後に睡眠を取った場合には201.18分間、低圧試験室で飲酒せずに睡眠を取った場合には173.28分間だった。
Elmenhorst氏らは、「これらの結果を総合的に捉えると、たとえ若く健康な人であっても気圧が低い環境での飲酒と睡眠の組み合わせは心血管系にかなりの負担をもたらし、心疾患や肺疾患の患者の症状を悪化させる可能性があると考えられる」と結論付けている。またElmenhorst氏は、「こうした潜在的なリスクについて、医師や乗客、乗務員に知らせるべきだ。また、飛行機内でのアルコール飲料へのアクセスを制限する規制の変更を検討することも有益かもしれない」と付け加えている。
Copyright c 2024 HealthDay. All rights reserved.
※掲載記事の無断転用を禁じます。
Photo Credit: Adobe Stock