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「親しい人の顔」は物の価値を認識するのと同じ脳領域で学習、サルで解明-筑波大ほか

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2024年06月14日 AM09:30

大脳基底核の線条体尾部、物とその価値を結びつけるのに重要な役割

筑波大学は6月11日、3頭のアカゲザルを用いた実験を行い、社会的な関わりの多い親しい人の顔が、物の価値を認識するのと同じ神経メカニズムによって、(特に線条体尾部)という脳の領域で学習されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系の國松淳助教、京都大学ヒト行動進化研究センターの網田英敏特任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

人間は親しい他者を認識し、社会的な絆を形成することで平穏な日常生活を送ることができている。研究グループはこれまでに、脳の深部にある大脳基底核、特に線条体尾部が、長期の経験に基づく学習によって物とその価値を結びつけるのに重要な役割を果たすことを明らかにしている。一方、このメカニズムが、日常生活のような、実験室環境とは異なる複雑な社会的状況でどのように機能するかは不明だった。今回は、同経路が長期間の社会的な経験を報酬として符号化している可能性があると考え、その検証を試みた。

サルに「親しい顔」等の画像を見せ、

研究グループは、3頭のアカゲザルを用いて実験を行った。実験対象のサルを日常的に世話している人の顔(親しい顔)、見知らぬ人の顔(親しくない顔)、もしくは、多い報酬に関連付けられた物体(高価値の物体)と少ない報酬に関連付けられた物体(低価値の物体)の画像を用意し、サルが目の前にモニター画面の中央を固視しているときに、その周辺にこれらの画像を提示した。サルがこれらの画像を見ている時の線条体尾部の神経活動を調べるため、単一神経細胞外記録を行った。この方法は標的の脳部位に直接電極を挿入するため空間解像度が高く、また電気信号の計測によりミリ秒単位の時間解像度で神経活動を記録できる。

社会的な親しみの情報と物体価値の情報を同じ神経細胞が保持

その結果、3頭のサルから記録した68個の線条体尾部の神経細胞のうち、約75%が視覚刺激に対して有意な反応を示し、そのうち約50%は顔の画像に強く反応した。顔の画像に反応するこれらの神経細胞の多くは、親しい顔に対して特に強い反応を示し、親しくない顔に対しては弱い活動を示した。また、物体については、高価値のものに対して強く反応し、低価値のものには弱い活動を示した。

このことから、社会的な親しみの情報と物体価値の情報を同じ神経細胞が保持していることが示された。さらに、社会的な親しみと物体の価値の弁別度が正に相関することから、これらは脳内で同じメカニズムで処理されていると考えられた。また、線条体尾部は眼球運動を制御する脳領域に情報を送り、価値の高い物体に対する素早い視線移動に関与していることがすでに報告されており、この経路が、社会的に親しみのある人を素早く見つけることにも貢献していると示唆された。

ASDやPD等の神経・精神疾患の治療法開発に寄与

研究では、大脳基底核の一部である線条体尾部の神経細胞が、社会的な情報と報酬の価値を同時に符号化する役割を持ち、これによりサルは親しい顔や価値の高い物体を迅速に認識することを明らかにした。この知見を応用し、異なる社会的文脈や感情状態における線条体尾部の神経活動の解析により、社会的な絆の形成や維持といった社会的相互作用のメカニズムをより深く理解できると考えられる。「(ASD)やパーキンソン病などの神経・精神疾患では社会的認知に関連する障害が報告されており、研究結果はこれらの病態の治療法開発にも役立つと期待される」と、研究グループは述べている。

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