線維化進行早期予測は困難、バイオマーカー開発が喫緊の課題
大阪大学は6月11日、間質性肺炎において、進行性の予測に有用な新規バイオマーカーとして肺サーファクタントタンパク質B(SP-B)を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科呼吸器・免疫内科学の榎本貴俊博士後期課程、白井雄也助教、武田吉人准教授、熊ノ郷淳 教授(呼吸器・免疫内科学/WPI-IFReC感染病態)らの研究グループによるもの。研究成果は、「JCI Insight」に掲載されている。
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間質性肺炎は、肺に不可逆的な線維化を呈する難病で、2022年には日本の死因第11位と報告されている。近年、抗線維化薬の有効性が示されているものの、一度生じた肺線維化を正常に戻すことは難しく、進行を抑えるために早期治療介入が望まれている。一方で、線維化が進行する速度は個人差が大きく、進行の速い患者を早期に予測することは困難だ。さらに、進行性の肺線維化を伴う間質性肺炎を総称する新たな疾患概念としてProgressive pulmonary fibrosis(PPF)が提唱され、線維化進行を予測することが可能なバイオマーカー開発が喫緊の課題だ。
SP-Bは従来バイオマーカーより病勢と強い相関、進行性リスク「高」を早期に捉える
研究グループは、新規メッセンジャーとして注目されている細胞外小胞(エクソソーム)の最新プロテオミクス(タンパク質網羅的解析)により、血液中の細胞外小胞から2,000種類以上に及ぶ膨大なタンパク質を捉え、肺線維化の病態や進行と密接に関わるバイオマーカーを世界で初めて同定することに成功した。とりわけ、細胞外小胞中のSP-Bは従来のバイオマーカーである血清KL-6やSP-Dよりも間質性肺炎の病勢と強く相関を示し、進行性リスクの高い患者を早期に捉えることが可能だ。
SP-Bがリキッドバイオプシーとして肺線維化を反映
さらに、シングルセル解析などを駆使することで、SP-Bの体内動態の検討からSP-B産生細胞を同定し、SP-Bがリキッドバイオプシー(液体生検)として肺線維化を反映していることを示した。
血清細胞外小胞中SP-B測定で患者を早期同定、予後改善に期待
従来、少なくとも半年から1年程度の経過観察にて、間質性肺炎の進行速度を見極めてから、実際に進行が速い患者にのみ抗線維化薬を投与する例がほとんどだった。血清細胞外小胞中SP-Bを測定することにより、進行性の間質性肺炎(とりわけPPF)患者を早期に同定可能となり、抗線維化薬などの早期治療によって予後を改善することが期待される、と研究グループは述べている。
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