脳死下臓器提供数は増加、ECPR実施の臓器提供者の特徴は不明
岡山大学は6月3日、日本臓器移植ネットワークのデータベースを解析し、一時的にでも心停止の状態に陥ったドナーを対象として、体外循環式心肺蘇生法(ECPR)を実施された群とECPRを実施されなかった群を比較し、臓器提供の選択肢提示や脳死下臓器提供に至るまでの期間は、ECPRを実施された群で有意に長いものの、移植を受けた人(レシピエント)の成績は肺以外については同等であることがわかったと発表した。この研究は、同大学術研究院医歯薬学域(医)救命救急・災害医学講座の湯本哲也講師、同・中尾篤典教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Critical Care」に掲載されている。
日本では1997年に臓器移植法が成立し、家族承諾による臓器提供が可能となった2010年以降、脳死下臓器提供数は増加してきたが、欧米に比べるとまだ臓器提供者(ドナー)が少なく、臓器移植を待つ間に臓器不全に陥り、死亡してしまう患者も多いことが社会問題となっている。日本では突然の心停止で毎年10万人以上が死亡しており、心肺蘇生により一命を取り留めても、脳機能が回復せずに脳死に陥り、最終的に臓器提供に至る患者が一定数存在する。近年、通常の心肺蘇生法で自己心拍が再開しない患者に対して、体外式膜型人工肺(ECMO)を使って蘇生を試みる体外循環式心肺蘇生法(ECPR)が普及し、特に日本で先進的に行われている。しかし、これまでECPRが行われて臓器提供に至った患者の特徴や移植を受けた人(レシピエント)の予後については調査されていなかった。
入院から臓器提供に至るまでの期間はECPR実施軍で有意に長い
研究グループは、日本臓器移植ネットワークのデータベースを用いて、2010年7月から2022年8月までに日本で脳死下臓器提供が行われた患者の解析を行った。心肺停止患者370例のうち7%にあたる26例がECPRを実施されていた。ECPRを実施された群とECPRを実施されなかった群を比較すると、入院から臓器提供に至るまでの期間はECPRを実施された群で有意に長いことがわかった。
ECPR実施臓器の生着率、肺は有意に低いが、心臓、肝臓、腎臓は同等
さらに、レシピエントの移植臓器の生着率について、ECPRを実施された患者から提供を受けた場合は、ECPRを実施されなかった患者からの提供と比較して、移植肺の生着率は有意に低いものの、心臓や肝臓、腎臓といったその他の臓器については差がないことがわかった。また、心停止下における移植腎の成績も、ドナーがECPRを実施されたか否かによらず同等であることが明らかとなった。
看取り方の選択肢の1つとしての臓器提供に関する正しい情報提供を
2024年1月1日に「臓器移植法の運用に関するガイドライン」が改訂され、ECMO装着中に脳死の診断をすることが可能になったものの、ECPRの普及により、心機能が回復しECMO離脱後に脳死と診断されるケースは増加することも見込まれる。
「移植肺の成績の差異の要因は今後さらに検証する必要があるが、心停止にてECPRを行ったか否かに関係なく、脳死とされうる状態に至った場合に、看取り方の選択肢の1つとして臓器提供があることを医療者はもちろん、広く一般の方々にも知ってもらうと同時に、医療者は適切な情報を提供し、患者や家族が臓器提供を希望された場合にそれを叶えられる環境と体制整備に努める必要がある」と、研究グループは述べている。
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