血液脳関門を通過し、他のALK阻害剤で生じる耐性変異を克服する薬剤として開発
ファイザー株式会社は6月3日、未治療の未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)の患者を対象として、第三世代ALK阻害剤の「ローブレナ(R)(一般名:ロルラチニブ)」と、「ザーコリ(R)(一般名:クリゾチニブ)」を比較した、第3相CROWN試験の長期追跡調査結果を発表した。これらのデータは、米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会のLate-Breaking Abstract口頭セッション(抄録LBA8503)で発表されるとともに、「Journal of Clinical Oncology」に掲載されている。
全世界において、肺がんはがんによる死因の第1位で、米国では2024年に23万4,580人が新たに診断されると見込まれている。NSCLCは肺がんの約80~85%を占め、約3~5%がALK陽性を伴う。ALK陽性進行NSCLC患者の約25~40%において、診断から2年以内に脳転移を来すことがある。同社は他のALK阻害剤で生じる耐性変異を克服し、血液脳関門を通過するような薬剤として、ローブレナを設計・開発した。
ローブレナは、米国では米国食品医薬品局(FDA)で承認された体外診断薬を用いた検査によりALK陽性と診断された転移性NSCLCの成人の治療を適応として承認されている。日本においては、2017年10月に医薬品医療機器総合機構(PMDA)が導入した「医薬品の条件付き早期承認制度」の適用を受け、優先審査対象として約8か月の審査期間を経て、2018年9月21日に「ALKチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性または不耐容のALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」の効能・効果で製造販売承認を取得した。次いで、上記の第3相CROWN試験の結果に基づき、2021年11月25日に「ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」の効能・効果で承認を取得し、ALK陽性肺がんの一次治療薬として使用することが可能となった。添付文書においては、「十分な経験を有する病理医または検査施設における検査により、ALK融合遺伝子陽性が確認された患者に投与すること。検査にあたっては、承認された体外診断用医薬品または医療機器を用いること」が求められている。
未治療のALK陽性進行NSCLC296人対象、ローブレナ単剤とザーコリ単剤を比較
CROWN試験は、第3相無作為化非盲検並行群間比較試験で、未治療のALK陽性進行NSCLC患者296人をローブレナ単剤療法(n=149)、またはザーコリ単剤療法(n=147)に1:1の割合で無作為に割り付けた。主要評価項目は盲検下での独立中央判定(BICR)によるPFSで、副次評価項目には治験担当医師の評価によるPFS、全生存期間(OS)、奏効割合(ORR)、頭蓋内奏効割合(IOR)、安全性が含まれる。3年間の追跡調査ではPFSの中央値に達しなかったことから、臨床的に意義のある指標となる5年間の追跡調査で、治験担当医師による腫瘍評価に基づく長期アウトカムの評価を目的として、試験の開始当初には予定されていなかった事後解析が実施された。
ローブレナ群で疾患進行または死亡リスク81%低下、疾患進行のない5年生存割合は60%
追跡期間の中央値5年の時点で、治験担当医師の評価による無増悪生存期間(PFS)の中央値はローブレナ群で到達せず、観察されたハザード比(HR)は0.19(95%信頼区間[CI], 0.13~0.27)で、ザーコリ群と比較して、疾患の進行または死亡リスクが81%低下したことが示された。さらに、5年後に疾患の進行なく生存していた患者は、ローブレナ投与群で60%(95%CI, 51~68)、ザーコリ群で8%(95%CI, 3~14)だった。
頭蓋内疾患進行リスクはザーコリ群と比較して94%低下
今回の解析で、ローブレナ群での頭蓋内の疾患進行リスクが94%低下したことが示された(HR, 0.06;95%CI, 0.03~0.12)。また、頭蓋内の疾患進行までの期間はローブレナ群で中央値に到達せず(95%CI, NR~NR)、ザーコリ群で16.4か月(95%CI, 12.7~21.9)だった。加えて、ベースライン時に脳転移が認められなかった患者のうち、投与開始後16か月以内に脳転移が認められたケースは、ローブレナ群で114例中わずか4例だったのに対し、ザーコリ群では109例中39例だった。CROWN試験における今回の解析時点で、ローブレナを継続している患者は50%であったのに対し、ザーコリを継続している患者は5%だった。
新たな安全性シグナルについては報告なし
5年間の追跡調査におけるローブレナとザーコリの安全性プロファイルはこれまでの所見と一致し、ローブレナに関して報告された、安全性の新たなシグナルは認められなかった。今回の解析で、ローブレナ群の患者で最も高頻度(≥20%)で認められた有害事象(AE)は、2020年のCROWN試験の結果と一致しており、浮腫、体重増加、末梢性ニューロパチー、認知障害、気分障害、下痢、呼吸困難、関節痛、高血圧、頭痛、咳嗽、発熱、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症などだった。グレード3/4のAE発現はローブレナ群で77%、ザーコリ群で57%だった。治験薬と関連のある投与中止に至ったAEはローブレナ群で5%、ザーコリ群で6%だった。
同社のオンコロジー部門開発チーフオフィサーは、「CROWN試験から得られた結果は前例がないもので、ローブレナで治療された患者の多くは疾患の進行がなく5年以上生存することができた。これらの結果は、患者のために科学的なブレークスルーの探求を続ける、当社の長年の取り組みによるものと考えている。ローブレナがALK陽性進行NSCLC患者の一次治療標準薬として位置づけられることを支持している」と、述べている。
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・ファイザー株式会社 プレスリリース