IBSの内臓知覚過敏や腸管バリア傷害におけるNLRP3インフラマソームの役割は?
旭川医科大学は5月22日、抗アレルギー薬「トラニラスト」が、過敏性腸症候群の新しい治療薬となり得ることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大地域医療教育学講座・総合診療部 野津司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Immunopharmacology」に掲載されている。
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IBS患者の多くで、内臓知覚過敏という現象がみられる。大腸に伸展バルーンを挿入して膨らませると、IBSでは健常人と比べて少しバルーンを膨らませるだけで、痛みを自覚することがわかっており(内臓知覚過敏)、これが腹痛と関連している。一方、腸管バリアの傷害と、それに伴う大腸の微小な炎症も、原因として重要であることがわかってきた。IBS患者では、炎症関連物質のリポポリサッカライド(LPS)や炎症性サイトカインの血液での増加が指摘されている。
また、IBSではストレスによって症状が悪化するが、ストレスホルモンのコルチコトロピン放出因子(CRF)が、内臓知覚過敏や腸管バリアの傷害を引き起こすことがわかっている。一方、LPSや炎症性サイトカインもこれらの大腸の機能変化を来すことが示されており、CRF受容体、LPSの受容体であるTLR4が互いに刺激し合い、炎症性サイトカインが産生されて、内臓知覚過敏、腸管バリアの傷害を生じることが原因の一つであると考えられている。
細胞内タンパク質複合体、NLRP3インフラマソームはLPS、TLR4を介して活性化され、その結果として炎症性サイトカインであるインターロイキン1βが産生される。そこで研究グループは今回、IBSの内臓知覚過敏や腸管バリアの傷害におけるNLRP3インフラマソームの役割を明らかにするために、NLRP3インフラマソームの抑制作用が報告されているトラニラストを使ってその検証を行った。
トラニラストの投与でマウスの内臓知覚過敏・腸管透過性亢進が抑制
内臓痛の評価は、ラットの大腸に伸展バルーンを挿入し、腹筋に筋電図の電極を装着してバルーンを膨らませて、ラットが痛みを感じ、それに伴って生じる腹筋収縮を筋電図で検出することにより痛みが生じる閾値を測定した。大腸のバリア機能は、エバンスブルーという色素を大腸に注入し、15分間に大腸組織に取り込まれるこの色素の量を測定することで評価した。
LPSを注射すると痛み閾値の低下(内臓知覚過敏)と腸管透過性亢進(腸管バリアの傷害)が生じるが(ラットのIBSモデル)、トラニラストはそれらの現象を阻止した。さらにCRFを注射すると同様の変化が生じるが(もう一つのIBSモデル)、トラニラストはそれらの変化も抑制した。
トラニラスト、LPS投与で増加する大腸組織のNLRP3とインターロイキン1βを抑制
ケトン体の一種であるβ-ヒドロキシ酪酸は、トラニラストと同様にNLRP3インフラマソームの抑制剤だが、これを投与したところ、LPSによる内臓知覚過敏と腸管バリアの傷害をトラニラストと同様に抑制した。一方、インターロイキン1βの注射でも、LPS、CRFと同様の大腸の機能変化を来したが、トラニラストはこれらの変化に影響を与えなかった。
大腸組織のNLRP3とインターロイキン1βはLPS投与により増加したが、トラニラストはこれらの増加を抑制した。
今後は臨床現場でIBSに対する効果検証実施の予定
IBSの原因として、内臓知覚過敏と腸管バリアの傷害が重要と考えられているが、それらの変化にNLRP3インフラマソームの活性化が関与しており、トラニラストはNLRP3インフラマソームの発現を抑制することにより、これらの変化を阻止した。
以上の結果は、トラニラストがIBSの症状を改善させる可能性があることを示している。現在IBSの治療の大部分は対症療法に留まっている。トラニラストは古くから日本で使われている抗アレルギー薬で、すでに安全性が広く確かめられている。
「本研究は、既存の薬剤トラニラストがIBSの新規治療薬として有望であることを指摘するものだ。今後は、実際に臨床現場でその効果について検証を行っていく予定だ」と、研究グループは述べている。
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・札幌医科大学 プレスリリース