ストレス関連疾患の治療が期待できる内受容感覚訓練、効果の神経基盤は未解明
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は5月28日、内受容感覚訓練(Interoceptive training)が前部島皮質(AIC)の脳回路変化を誘導することを明らかにしたと発表した。この研究は、NCNP行動医学研究部の関口敦室長、慶應義塾大学文学部心理学専攻の寺澤悠理准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Translational psychiatry」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
内受容感覚とは、心拍や呼吸、消化管の動きなど体内のさまざまな部位からの情報の知覚のことである。最近では、認知訓練によってこの内受容感覚精度が向上することが示されている。AICは内受容感覚を処理する脳部位として知られており、ストレス関連疾患における不安や身体症状とも関連する脳部位である。内受容感覚訓練のAIC関連脳回路に与える影響についての研究は、内受容感覚訓練のメカニズムの理解およびストレス関連疾患の不安、身体症状の治療法開発への発展が期待できる。
これまでの研究では、内受容感覚の機能異常は多様なストレス関連疾患(不安症、身体症状症、過敏性腸症候群、摂食症、PTSDなど)に認められている。研究グループは、内受容感覚訓練による内受容感覚精度の向上が、不安や身体症状の改善と合理的な意思決定に寄与することを発見していた。しかし、内受容感覚訓練の効果の神経基盤は未解明だった。この背景を踏まえ、今回は内受容感覚訓練の前後でfMRIを用いて安静時機能的結合性(RSFC)を測定し、内受容感覚訓練が脳の脳回路に与える影響を検討した。
健康な成人22人、1週間にわたり内受容感覚訓練受け心理的・行動的評価を実施
22人の健康な成人ボランティア(19.9±2.0歳、女性15人)が参加し、1週間にわたり内受容感覚訓練を受け、その前後で心理的および行動的評価を実施した。また、fMRIを用いてRSFCを測定し、内受容感覚訓練の効果を検討した。
不安レベル・身体症状改善、各脳回路における安静時機能的結合性も変化
内受容感覚訓練の結果、被験者の内受容感覚精度が向上し、不安レベルおよび身体症状が改善された。さらに、AICから左背外側前頭前野(DLPFC)、右上縁回(SMG)、左前部帯状皮質(ACC)、脳幹(孤束核:NTSを含む)へのRSFCが増強された。一方で、AICから視覚野へのRSFCは減少した。
これらの結果は、内受容感覚訓練がAICを中心とする脳回路を変化させることで、不安や身体症状の改善に寄与することを示唆している。特に、AICからDLPFCおよびSMGへの結合性の増強は、感情の認知的制御に関与する「トップダウン」プロセスの強化を反映していると考えられる。また、AICからACCおよびNTSへの結合性の増強は、内受容感覚の「ボトムアップ」プロセスの強化を示唆している。さらに、視覚野への結合性の減少は、外部感覚(視覚)から内受容感覚への注意のシフトを反映していると考えられる。
心理療法や認知リハビリテーションの新しいアプローチ提案につながる可能性
今回の研究成果は、内受容感覚訓練が不安や身体症状の改善に有効であることを示している。今後は、ストレス関連疾患の患者を対象に、内受容感覚訓練の効果を検証し、より具体的な治療法の開発を進めることが期待される。「今回の研究で得られた知見を基に、心理療法や認知リハビリテーションの新しいアプローチを提案することも期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース