大規模学校健診データでも小児身体への悪影響はみられるか
国立成育医療研究センターは5月28日、約40万人分の学校健診情報(SHRデータベース)を用いて、新型コロナウイルスのパンデミック(以下、パンデミック)による環境の変化が、子どもたちの身体的健康にどのような変化をもたらしたかを調べ、その結果を発表した。この研究は、同センター社会医医学研究部臨床疫学・ヘルスサービス研究室の大久保祐輔氏、社会医医学研究部の石塚一枝氏、横浜市立大学データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の後藤温氏の研究グループによるもの。研究成果は、「Pediatric Obesity」に掲載されている。
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新型コロナウイルスのパンデミックにより、さまざまな感染予防策がとられた結果、小児の教育・社会環境は大きく変化した。これにより、屋外活動の減少、スクリーンタイムの増加、食生活の変化がみられたと、過去に報告されている。これまでに日本で行われた研究では、パンデミックによる肥満、近視、虫歯の増加など身体的健康の悪化が報告されている。しかし、これらの研究は特定の地域に限定され、2020年度のデータなど短期的な影響のみを評価している。そのため、より地域的な広がり、大規模かつ長期間にわたる影響を調べる研究が求められていた。そこで研究グループは、パンデミックによる環境の変化が、子どもの身体的健康に長期的に与えた影響を、大規模な学校健診データを用いて分析した。
40万人分、350万件の学校健診データを対象に調査
研究グループが今回用いたデータは、健康・医療・教育情報評価推進機構(HCEI)が提供する学校健診情報(SHRデータベース)で、対象データは2015年度~2022年度に中学校を卒業した子ども約40万人分の、小学1年生~中学3年生時の学校健診データ約350万件。評価項目は性別、身長、体重、視力(矯正なし、あり)、虫歯の治療状況、尿検査だった。対象データから、学校健診の項目を抽出し、新型コロナウイルスのパンデミックによる影響を差分の差分法(Difference-in-Differences)を用いて、パンデミック前(2019年)とパンデミック期間(2020年、2021年、2022年)を比較して分析した。
基準は、肥満・やせについては、WHO基準をもとにBMI(体格指数)のZスコアを出し、標準偏差が+2となる場合を肥満、-2となる場合をやせとした。視力不良は1.0未満の場合、未治療の虫歯は治療を行っていない虫歯がある場合、血尿は尿潜血検査が1+以上の場合と定義した。
肥満・やせ・視力低下は増加傾向、未治療の虫歯と血尿陽性は減少傾向
その結果、小児の肥満は、2020年~2022年の3年間おいてパンデミックによる影響と思われる増加が見られ、2022年には0.42%増加(男子0.49%増加、女子0.36%増加)していた。一方、小児のやせは、パンデミック3年目(2022年)に0.28%増加(男子0.21%増加、女子0.34%増加)していた。
視力低下は、パンデミック開始後の2年間(2020年、2021年)は男女ともに増加していた。男子のみ2022年もパンデミックの影響が続き、1.9%増加していた。また、未治療の虫歯は、パンデミック3年目(2022年)に1.48%減少していた(男子1.13%減少、女子1.83%減少)。さらに、血尿が陽性となる生徒は減少し、パンデミック3年目に0.43%減少していた(男子0.54%減少、女子は0.32%減少)。
「研究により、新型コロナウイルスのパンデミックが引き起こした環境の変化が肥満、やせ、視力低下の増加といった身体的健康に与えた影響を明らかになった。今後は、より長期にわたる健康影響の追跡調査や、パンデミックによる健康への悪影響を緩和するための具体的な方法を検証することが必要だ」と、研究グループは述べている。
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・成育医療研究センター プレスリリース