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難治性前立腺がん、アスタチン標識薬の医師主導治験を開始-阪大ほか

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2024年06月03日 AM09:30

、標準治療抵抗性で多発転移を伴う場合は予後不良

大阪大学は5月27日、大阪大学医学部附属病院で、標準治療抵抗性の前立腺がんを対象とした新たな医師主導治験を2024年6月より開始することを発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の渡部直史講師、富山憲幸教授(放射線医学)、波多野浩士講師、野々村祝夫教授(泌尿器科学)らの研究グループによるもの。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

前立腺がんは世界的に増加傾向にあり、国内男性で新規罹患数の最も多いがんとなっている。2019年に国内で前立腺がんと診断されたのは、9万4,748人だった。前立腺がんにはさまざまな治療が実施されるが、標準治療抵抗性で多発転移を伴う場合は予後不良となり課題となっている。

海外で承認のβ線核種ルテチウムPSMA治療、Lu-177は国内製造不可・治療抵抗性の課題

近年、狙った標的に結合する化合物に、標識する核種を変えることで、がんの診断から治療まで一貫して実施するセラノスティクス(Theranostics)が注目を集めている。前立腺特異的膜抗原()は、PETを用いた画像診断から核医学治療まで展開可能なセラノスティクスの革新的な標的として注目されている。

研究グループはこれまで、独デュッセルドルフ大学のFrederik Giesel教授らとの共同研究を行い、PSMAを標的としたPET画像診断の臨床研究を実施してきた。また、海外ではβ線核種のルテチウム(Lu-177)を用いたPSMA治療がすでに承認されているが、Lu-177は日本国内で製造ができないことや、Lu-177治療抵抗性の患者がいることがわかっている。

アスタチンはβ線治療抵抗性でも治療効果期待、加速器を用いた国内製造可能

アスタチンは従来の放射線よりもエネルギーの高いα線を放出する核種であり、β線治療抵抗性であっても治療効果が期待できるだけでなく、加速器を用いた国内製造が可能だ。理化学研究所では、重イオン加速器施設「RIビームファクトリー」の加速器を用いて、同研究に必要とされるアスタチン原料を大量製造する技術開発を行い、大阪大学への安定供給を実現した。

大阪大学医学部附属病院では、すでにアスタチン化ナトリウムを用いた難治性甲状腺がんに対する医師主導治験が実施されている。今回は、国内で患者数が多く、アンメットニーズが強い難治性前立腺がんに対して、アスタチン標識薬([At-211]PSMA-5)を用いた2つ目の医師主導治験を開始する運びとなった。同剤は、静脈内投与で体内からアルファ線を照射。全身の転移巣に対する治療が可能だ。先行研究により、動物モデルへの有効性が報告されている。

標準治療の実施・継続困難な去勢抵抗性前立腺がん対象、アスタチン標識薬のP1治験

今回の医師主導治験は、標準治療の実施・継続が困難である去勢抵抗性前立腺がん患者を対象として、アスタチン標識薬([At-211]PSMA-5)を投与した後の忍容性、安全性、薬物動態及び有効性を確認するための第1相治験。同治療薬は世界で初めてヒトに投与され、抗がん剤の治験として低用量から開始して、徐々に用量を増量していく用量漸増デザインとなっている。実施期間は、2024年6月〜2027年3月予定。予定症例数は15例としている。

重篤な副作用はまれ・入院不要・国内製造可能、日本発治療法として期待

多発転移を伴う去勢抵抗性前立腺がん患者には化学療法等が実施されるが、副作用が少なくなく、早期に治療抵抗性となることもある。一方、核医学治療では重篤な副作用を認めることはまれであり、かつ飛程の短いアルファ線を用いた治療では専用の病室への入院が不要だ。アスタチンは加速器を用いた国内製造が可能であり、製造拠点を整備することで、多くの患者に外来治療として実施できることが見込まれるという。将来的には日本発の治療方法として、世界中の前立腺がんの患者に用いられることが期待される、と研究グループは述べている。

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