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マイノリティのいる確率を低く見る理由は偏見ではなく思考のクセと判明-新潟大ほか

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2024年06月03日 AM09:20

人々が集団に「マイノリティのいる確率」を過小評価しているかは不明

新潟大学は5月27日、集団にマイノリティが1人でもいる確率が、大幅に過小視されていることを発見したと発表した。この研究は、同大人文学部の新美亮輔准教授()によるもの。研究成果は、「Journal of Cognitive Psychology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

社会にはさまざまなマイノリティが存在する。しかし、自分がそのマイノリティでなければマイノリティの存在は身近ではなく、自分の周りにはいないと思うかもしれない。例えば、国立社会保障・人口問題研究所の全国調査によると、約8割の人が同性愛者は身近に「いない」「いないと思う」と回答している。学校のクラスや職場などの身近な人々は数十人程度の集団だが、このような集団にマイノリティが1人でも含まれる確率をヒトがどのように認知しているのかは不明だ。例えば、高校の先生が30人のクラスを新しく受け持つ場合、その中にLGBTQの生徒や、色覚異常を持つ生徒や、外国籍の生徒はいるだろうか。マイノリティは見た目だけではわからない上、マイノリティは偏見やいじめを避けるために、自らがマイノリティであることを明かさないことも多い。従って、確率的な思考が重要だ。

ところが、ヒトは確率を考えることがとても苦手で、しばしば実態からかけ離れた推論をしてしまうことが認知心理学や行動経済学で知られている。実際、大学の心理学の授業で、色覚異常のある人やLGBTQは数%いるので30人のクラスや職場ならその中に1人でもいる可能性は結構あるという話をしても、多くの学生はあまり実感していない。

人口割合が3%であるマイノリティが30人クラスに1人でもいる確率を求める場合、30人全員がそのマイノリティではない確率を求め、1から引けば求めることができる。ランダムに選ばれたある1人がこのマイノリティである確率は3%つまり0.03、ある1人がこのマイノリティではない確率は0.97となり、30人全員がこのマイノリティではない確率は0.97の30乗だ。よって、30人の中にこのマイノリティが1人でもいる確率は1-0.9730となり、これをコンピュータで計算すると約0.60つまり60%になる。これは、もし30人のクラスが100クラスあったら、マイノリティを1人でも含むクラスが60クラス程度あるだろうということだ。80人の職場について考えるとこの確率は91%になり、人口割合7%のマイノリティなら確率はもっと高くなる。これらの確率は、直感よりもかなり高いと考えられる。つまり、人々は集団にマイノリティが1人でも含まれる確率を実際より低く思ってしまっている可能性がある。もし、このような確率を過小視している場合、マイノリティが自分の周りにはいないと実際以上に思ってしまうだろう。特に、教員や管理職がこのような過小視をしている場合、マイノリティがいない前提でクラスや職場が運営され、マイノリティには生きづらい場になってしまっている可能性もある。そこで今回、本当に人々がこのような確率を過小視しているのか、もし過小視しているならその原因は何なのかを明らかにすべく、研究を行った。

大幅な過小評価が起こっていることが判明したが、原因は「偏見」ではなかった

まず、オンライン実験を行い、実験参加者(成人)に実際に確率を考えて答えてもらった(有効回答429人)。その結果、およそ9割の回答が数学的に求められる確率よりも低く、大幅な過小視が起こっていることが明らかになった。大学生にパソコンを用意してもらった上で同様の質問をしたところ、過小視の程度は幾分弱まったが、大幅な過小視が生じた。質問文の表現を改善したり、オンライン実験ではなく対面実験にしても、同様の結果だった。

ネガティブな偏見をあまり持たれないと考えられるマイノリティ(絶対音感など)や、架空のマイノリティを題材にして同じような質問をしてもほとんど同じ結果となり、同様の過小視が起こったことから、確率の過小視は、マイノリティに対する偏見の現れではないことがわかった。そこで次に、なぜこのような大幅な過小視という「偏り」が生じるのか検討した。

馴染みがなく解決法が見出せない問題に対してヒューリスティクスが用いられた可能性

集団にマイノリティが1人でもいる確率の数学的な確率を答えられないのは当然のことだ。そこで、回答のパターンや、どのように考えたかを回答後に自由記述で答えてもらった内容を分析した。すると、人口割合をそのまま回答している例や、人数の期待値(たとえば30人の7%、すなわち30×0.07=2.1人)を計算している例が多く見られた。人口割合や人数の期待値は比較的小さな数値であるため、それを基準にして考えると大幅な過小視が起こってしまうと考えられた。

ヒトは、実行可能な解決法が見出せない困難な問題に直面すると、代替となる実行可能な方法を用いて問題解決をはかる。この問題を正しく解決できる保証はないが代替策としてよく用いられる問題解決方法を「ヒューリスティクス」と呼ぶ。おそらく、「集団にマイノリティが一人でもいる確率」について多くの人は考えたことがなく馴染みがないため、妥当な解決方法が思いつかないと思われる。そこで、人口割合や期待値の計算をヒューリスティクスとして用いたと考えられた。

一方で、数は少ないながら、数学的な確率に近い、高い確率の回答もあった。これらの例を分析すると「人数の期待値が1を超えていたら確率は高いはずだ」という推測をしている点が挙げられる。このように、比較的妥当な推論を導くヒューリスティクスも存在する。

さらに、数学的に求められる「集団にマイノリティが1人でもいる確率」を知ることが、実際に人々の意思決定に影響する可能性があることも判明した。

色覚異常に関するインクルーシブな意見を述べた3つの文(例えば「企業の経営者は、色覚異常のある人も働きやすい職場づくりに責任を持つべきだ」)に対する賛否の度合いをたずねた。その後、色覚異常を持つ人が3%とすると80人の中に色覚異常を持つ人が少なくとも1人いる確率が91%であることを説明した。最後に、再び3つの文に対する賛否の度合いをたずねると、最初よりも賛成の度合いが高くなった。

数学的な確率(91%)を教えずに、80人の中に色覚異常を持つ人が少なくとも1人いる確率を考えてもらうだけの場合では、賛否はわずかにしか変化しなかった。また、数学的な確率を教えずに、80人の中に色覚異常を持つ人が何人いるかを考えてもらうだけの場合には、賛否は変化しなかった。

多様性の理解を難しくしている認知的要因の解明、解消につながる可能性

今後、過小視の原因をさらに解明することが必要だが、今回の研究により、過小視の原因は差別的だから集団にマイノリティが1人でもいる確率を過小視するなどということではなく、ヒトの確率判断の苦手さと、それによって引き起こされる思考の誤りであることがわかった。これはヒトの一般的な特性であり、その特性は認知心理学によって解明することが可能だ。今後、集団にマイノリティが1人でもいる確率を直感的に理解しやすく説明できる手法の開発も考えられる。

本研究成果は、多様性の理解を難しくしている認知的要因を明らかにし、解消するヒントになることが期待され、教員研修や管理職研修に取り入れることもできる、と新美亮輔准教授は述べている。

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