「予測」の脳活動、脳全体か特定の場所かは不明だった
東京大学は5月22日、脳が経験や予測を、脳全体で表現することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大定量生命科学附属高度細胞多様性研究センター神経計算研究分野の石津助教(研究当時)、船水講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
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野球の打席や、テニスのサーブのリターンなど、十分な感覚情報を得られない状況では、知識や経験が成功の重要なカギとなる。これまでの先行研究でも、脳が感覚情報と予測をどのように統合し、行動を最適化するかが検証されてきた。しかし、多くの研究は脳の特定の場所の役割に注目したため、脳が予測を全体で表現するのか、特定の場所で表現するのかは、わかっていなかった。
行動実験+大脳皮質のさまざまな場所の神経活動の網羅的計測、マウスで
感覚情報が短く、不確実な場合、経験に依存することで行動を最適化できることが知られている。一方、感覚情報が確実な場合、経験に依存する必要はない。研究グループによる先行研究で、感覚情報と経験のバランスに注目したマウスの行動実験を開発している。今回の研究では、この行動実験を改良するとともに、行動実験中のマウスで大脳皮質のさまざまな場所の神経活動を計測した。計測には、特殊な電極Neuropixelsを用いた。
行動実験では、マウスが音刺激の周波数の高・低に応じて、左・右のスパウトを舐め分け、正解ならば報酬として水を得ることが出来る。今回の研究では、左右のスパウトから貰える水の量をバイアスさせることで、マウスに試行錯誤でどちらのスパウトから多く水をもらえるかを予測させる系を立ち上げ、マウスの脳の神経活動を計測した。
大脳皮質、運動や音刺激は特定の場所/予測は広域的に表現することを示唆
行動実験時のマウスの神経活動を計測した結果、大脳皮質の運動野や聴覚野は、それぞれ、マウスの左右スパウトの選択や、音刺激を選択的に表現。一方、大脳皮質の前頭葉・運動野・聴覚野は、報酬の予測を均等に表現した。これらの結果は、マウスの大脳皮質が、運動や音刺激を特定の場所で表現する一方で、予測を広域的に表現することを示唆している。
精神疾患の作用機序理解・治療開発に期待
予測は、ヒトや動物の意思決定に不可欠な要素だ。一方で、物事の予測が破綻した場合、幻聴や妄想につながり、精神疾患につながると考えられる。今回の研究成果が今後、精神疾患の作用機序の理解や治療につながることが期待される。また、研究グループは、脳の意思決定の理論的な理解を目指している。これらの脳の知見が、将来の脳型人工知能の開発につながることを期待している、と述べている。
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・東京大学定量生命科学研究所 プレスリリース