一度発症すると再発を繰り返す心不全、そのメカニズムは不明
東京大学医学部附属病院は5月25日、「心不全がなぜ再発するのか」を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の藤生克仁特任教授と、小室一成特任教授(国際医療福祉大学副学長兼任)、千葉大学大学院医学研究院の眞鍋一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Immunology」に掲載されている。
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心不全は息切れやむくみを初期の症状とし、心臓が全身の血液を送り出す臓器であることから最終的に多臓器不全を生じ、死に至る症候群である。現在、さまざまな内服薬のほか、心不全や突然死を予防する植込みデバイスが使用されている。しかし心不全は再発を繰り返し、患者の予後は必ずしも良くはない。その原因の一つとして再発のメカニズムが不明であることが挙げられる。
研究グループは、心不全の臨床経過の特徴である「一度心不全を発症すると、入退院を繰り返す」「他の病気にも影響する」という点に着目し、「心不全になると、そのストレスがどこかに蓄積する」と仮説を立てて研究を行った。
心不全時のストレス、造血幹細胞に蓄積し心臓保護する免疫細胞産生に影響
今回、その原因が、心不全時のストレスが骨の中にある造血幹細胞に蓄積することであると世界で初めて同定した。研究グループはこれまでに、心臓内の免疫細胞が心臓の収縮力を維持したり、不整脈を生じさせないようにしたりといった、心臓を保護する機能を有していることを報告してきた。造血幹細胞はこの心臓を保護する免疫細胞の元となる細胞である。今回、ストレスが蓄積した造血幹細胞からは、心臓を保護する免疫細胞が作られないことを発見した。この結果、心臓の保護作用が失われて機能が低下し、心不全が再発しやすい原因になると考えられる。さらに造血幹細胞は全身の臓器に免疫細胞を供給しており、この造血幹細胞へのストレスの蓄積によって、腎臓、骨格筋、脂肪組織などの免疫細胞にも悪影響を与え、心不全に合併し生命予後の悪化と関連する腎臓病、サルコペニア、るい痩(そう)の発症にも関与していることが明らかになった。
ストレスで交感神経シュワン細胞の活性型TGF分泌低下、造血幹細胞にエピゲノム変化発生
続いて研究グループは、どのように造血幹細胞にストレスの蓄積が生じるかを検討した。その結果、心不全時に脳に伝わったストレスは、脳から骨の中にある交感神経の機能低下を生じさせ、その交感神経の周囲に巻き付いているシュワン細胞から、健康な時には分泌されている活性型TGFというタンパク質が分泌されなくなることを同定した。この活性型TGFが骨の中で不足すると、造血幹細胞の遺伝子発現を制御するエピゲノムに変化が生じ、このエピゲノムの変化が心不全時のストレス蓄積の実態であると同定した。
心不全モデル動物への活性型TGF注射で、ストレス蓄積を予防
最後に、どのようにするとストレスの蓄積を予防できるかを検討した。心不全のモデル動物において、心不全時に骨の中で不足する活性型TGFを注射で補うと、ストレス蓄積を予防することができた。
「研究成果は、心疾患による心不全死や心臓突然死の新しい予防法、治療法の開発に貢献することが見込まれるとともに、今後は心不全発症前の超早期発見や、発症前に治療を行う未来の治療につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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