医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > パーキンソン病治療にリボフラビン・ビオチン投与が有効な可能性-名大ほか

パーキンソン病治療にリボフラビン・ビオチン投与が有効な可能性-名大ほか

読了時間:約 3分6秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年05月31日 AM09:00

日本を含む5か国のパーキンソン病患者の腸内細菌叢メタ解析を実施

名古屋大学は5月24日、ビタミンB投与がパーキンソン病治療につながる可能性があることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科神経遺伝情報学・西脇寛助教、医学系研究科医療技術学専攻病態解析学・上山純准教授の研究グループと、同大管理栄養学部・大野欽司教授、中部大学生命健康科学部・平山正昭教授、・柏原健一院長、岩手医科大学神経内科老年科学・前田哲也教授、福岡大学脳神経内科学・坪井義夫教授との共同研究によるもの。研究成果は、「npj Parkinson’s Disease」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

パーキンソン病は、中脳の黒質に存在するドパミン産生細胞にα-シヌクレインというタンパク質が異常に凝集して、レビー小体を形成することで引き起こされる。このα-シヌクレイン凝集体は腸管神経叢から始まり、迷走神経を通じて中脳黒質に達すると考えられている。これにより正常なα-シヌクレインも異常に凝集し始め、病気が進行する。パーキンソン病の初期症状として、便秘、レム睡眠行動障害、うつ病などが運動症状の出現よりも前に起こることが知られており、これらはα-シヌクレインの異常な伝播に関連している可能性がある。実際に以前の研究で、パーキンソン病患者の腸管にα-シヌクレイン凝集体が多く見られることがわかっている。また、パーキンソン病患者では腸管透過性が上昇することを同研究グループとドイツのグループが以前に報告している。

研究グループは以前、16S rRNAシークエンシングによる5か国のデータを使ったメタ解析により、ムチン分解菌であるAkkermansiaの増加と短鎖脂肪酸産生菌であるRoseburiaとFaecalibacteriumの減少がパーキンソン病において、国を超えて認められることを明らかにした。しかし、16S rRNAシークエンシングでは属レベルでの細菌の同定に留まっており、腸内細菌の遺伝子レベル・代謝経路のレベルでの解析は行えないのが現状だ。

そこで今回、ショットガンメタゲノム解析から腸内細菌の遺伝子レベルの解析を行い、パーキンソン病で機能が亢進または低下している代謝経路の同定を試みた。パーキンソン病患者のショットガンメタゲノム腸内細菌叢研究が8件報告されており、これらの中から利用可能なショットガンメタゲノムデータをダウンロードし、研究グループが収集した便サンプル由来のショットガンメタゲノムデータと合わせてメタ解析を行った。

パーキンソン病患者で、リボフラビンとビオチン合成酵素に関連する細菌遺伝子が減少

解析の結果、腸内に存在する微生物種の多様性を測る指標であるα多様性がパーキンソン病患者で増加していることが判明。16S rRNAシークエンシングを用いたメタ解析の結果と同様に、Akkermansia muciniphillaがパーキンソン病患者で増加し、Roseburia intestinalisとFaecalibacterium prausnitziiが減少していた。経路分析では、リボフラビンとビオチンの生合成に関わる遺伝子が、パーキンソン病患者で顕著に減少していることが示された。炭水化物活性酵素の6つのカテゴリーのうち、5つがパーキンソン病で減少していた。同研究グループの便サンプルを使った便中代謝物分析により、腸内短鎖脂肪酸とポリアミンが減少していることがわかった。さらに、リボフラビンおよびビオチンの生合成に関与する遺伝子量と腸内短鎖脂肪酸およびポリアミンの濃度が正相関することが判明した。加えて、日本、米国、ドイツでリボフラビンとビオチンの生合成が減少した原因となった細菌群は、中国、台湾のそれとは異なっていることも判明した。

パーキンソン病患者の腸内細菌叢の異常により、短鎖脂肪酸とポリアミンが減少

同研究結果と以前の研究から、短鎖脂肪酸とポリアミンの減少は粘膜層の薄化を引き起こし、それが腸の透過性を増加させることが推察された。実際に、パーキンソン病の腸の透過性が増加していることがわかっている。増加した腸の透過性は、腸の神経叢が農薬、除草剤、その他の毒素にさらされる可能性を高め、α-シヌクレインの異常な凝集を引き起こす。さらに、短鎖脂肪酸とポリアミンはM2マクロファージの分化を促進し、相対的にM1マクロファージを減少させ、その欠乏は神経炎症を誘発する。

したがって、パーキンソン病における腸内細菌叢の異常が腸内の短鎖脂肪酸とポリアミンの生産減少を引き起こし、腸内のα-シヌクレイン形成と神経炎症を促進すると予想された。

パーキンソン病の病態解明と新規治療法開発につながる可能性

同研究により、腸内細菌叢の異常がパーキンソン病において重要な役割を果たしている一部のパーキンソン病患者において、リボフラビンとビオチンの補給が有益である可能性が示された。「パーキンソン病の病態の解明と新規治療法開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 敗血症患者のICU関連筋力低下、PD-1阻害剤が新たな治療薬候補に-三重大
  • 皮膚内部幹細胞の加齢変化をAIシステムで非侵襲的に確認-メナード化粧品
  • 状況変化に対応する「実践型・理論型」の思考法に関わる脳回路をサルで発見-京大ほか
  • 褥瘡にフェロトーシスが関与、阻害剤「吸入」でマウスの潰瘍縮小-群大ほか
  • 遺伝的に肥満になりやすい人、運動量増でリスク低減の可能性-岩手医科大