ジストロフィン遺伝子変異による進行性の筋疾患DMD
九州大学は5月22日、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の骨格筋および心筋の症状を再現する世界最小のマイクロミニ・ブタモデルを創出したと発表した。この研究は、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所の今村道博研究員、青木吉嗣部長(遺伝子疾患治療研究部)、静岡県畜産技術研究所中小家畜研究センターの大竹正剛科長、同大大学院医学研究院の小野悦郎名誉教授、東京大学医科学研究所の木村公一特任講師らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」にオンライン掲載されている。
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DMDは、ジストロフィン遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性の筋疾患。約4,000人に1人の割合で男子に見られる。この病気では、筋肉が壊れやすくなり、次第に弱くなっていく。子どもが5歳頃になると筋力の低下が始まり、12歳頃には歩行が困難になり、30代後半には心臓や呼吸の問題が大きくなるとされる。
DMDミニ・ブタモデル、大きさ・出生後すぐ死亡などの課題あり
DMDに対する新しい治療法を開発するため、これまで、マウスやラット、イヌなどのモデル動物を使った実験が行われてきた。これらの実験は重要な情報を提供してくれるが、ヒトとの違いが大きいため、ヒトの病気をより正確に再現できる動物モデルの開発が求められている。ブタは、臓器の配置や構造、そして免疫の仕組みなど、ヒトと似ている点が多いため、非臨床研究において有望な動物モデルとされている。しかし、ブタはヒトよりはるかに大きいため、多量の薬が必要になったり、飼育環境を整備しなければならなかったりするため、長期間の研究には適していない。
この問題を解決するために、ミニブタと呼ばれるより小さなブタが使われ始めたが、それでも成長すると約100kgにもなるため、特別な飼育施設を必要とする。さらに、ミニブタで筋ジストロフィーモデルを作ると出生後すぐに死亡することが多く、生き延びてもほとんどが3か月以内に亡くなっていた。これらの問題が解決されれば、ブタはDMDの研究において理想的なモデルになり得る。
CRISPR/Cas9ゲノム編集でDMDマイクロミニ・ブタモデル作製
今回研究グループは、世界で最も小さい実験用ブタであるマイクロミニ・ブタに注目し、筋ジストロフィーモデルブタの作製に取り組んだ。具体的には、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術を用いて、マイクロミニ・ブタのジストロフィン遺伝子のエクソン23に11塩基の欠失を作った。その結果、このブタの骨格筋や心筋の細胞膜からは、最も大きなジストロフィンの分子種であるDp427タンパク質が消失。ジストロフィンのウエスタンブロット解析では、骨格筋と心筋からDp427タンパク質がなくなっている一方で、短いジストロフィンの分子種であるDp71タンパク質は残っているのがわかった。
骨格筋萎縮・筋力低下、心筋症など、DMD患者の症状を再現
また、ジストロフィンの免疫染色では、骨格筋と心筋の細胞膜からDp427タンパク質が消失していることを確認。これはヒトのDMDと同様のパターンを示している。このマイクロミニ・ブタモデルは、骨格筋の萎縮と筋力の低下、心筋症、血中クレアチニン値が高値、運動機能の低下など、DMD患者に見られる症状を非常に良く再現していた。
従来ブタモデルより長命/骨格筋・心筋が適切に重症化、治療法開発に期待
このマイクロミニ・ブタモデルの注目すべき特徴として、ブタでありながら非常に小さいため、中型実験動物の施設で容易に飼育できること、そして、早死にしないことを挙げている。生後3か月~6か月の間に亡くなるものがいるものの、生後すぐに亡くなることはなく、1年以上生きる個体も多数いる点が、以前のDMDミニ・ブタモデルとは大きく異なる。DMDの新しいマイクロミニ・ブタモデルは、以前のブタモデルよりも寿命が長く、骨格筋と心筋の状態が適切に重症化するため、病気のメカニズムをより深く理解することができるとしている。
研究グループは、新しいDMDのマイクロミニ・ブタモデルの有用性を明らかにするため、自然歴や病態の研究を進めている。同モデルは非臨床研究に非常に役立つ可能性があり、DMDの治療法開発を加速させることが期待される、と研究グループは述べている。
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・九州大学 プレスリリース