ダパグリフロジン、2型糖尿病の有無を問わないCKD対象の試験で有効性を示す
横浜市立大学は5月23日、慢性腎臓病(CKD)治療薬として国内初承認されたSGLT2阻害薬ダパグリフロジンの費用対効果が高いことを報告したと発表した。この研究は、同大医学部循環器・腎臓・高血圧内科学の田村功一主任教授らの産学連携国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical Kidney Journal」に掲載されている。
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近年、日本では少子高齢化と長寿化が進行しており、それに伴う国民医療費の増加、および平均寿命と健康寿命(平均寿命から寝たきりや認知症など介護状態の期間を差し引いた期間)とのギャップの縮小化を図ることが課題となっている。そして、世界、特に日本において増加しつつある慢性腎臓病(CKD)とその進行・悪化により透析・移植が必要となる末期腎不全の現況は、それ自体、および病態連関機序によって引き起こされる高血圧、脳心血管病(CVD)、糖尿病などの代謝疾患と相まって、健康寿命の延伸と医療財政の健全化にとって大きな障害の一つとなっている。CKDは、腎臓の尿細管間質線維化がその中核的病態を構成し、進行して不可逆的なCKDを直接改善できる治療薬がこれまで存在せず、重要なアンメット・メディカル・ニーズが存在していた。しかしながら、最近では、進行したCKDの悪化速度を有意に抑制できる薬剤も開発されている。
そのような中、研究グループの田村主任教授が参加したランダム化比較国際共同臨床試験(DAPA-CKD試験)では、2型糖尿病の有無を問わないCKD患者4,304例(日本を含む386施設、21か国、うち日本からは244例登録)を対象として、SGLT2阻害薬ダパグリフロジン治療の効果が検討された。その結果、患者追跡期間中央値2.4年における主要複合評価項目[50%以上のeGFR低下+末期腎不全(維持透析導入、腎臓移植、eGFRの15ml/min/1.73m2未満への低下)+腎疾患死+心血管死]の発生は、ダパグリフロジン群197例(9.2%)、プラセボ群312例(14.5%)[ハザード比(HR)0.61(95%CI 0.51 to 0.72、p<0.001)、NNT=19(95%CI 15 to 27)]だった。さらに、ダパグリフロジン治療群における主要複合評価項目の減少は、2型糖尿病CKD患者、非2型糖尿病CKD患者において同様に認められた。この試験の結果、米食品医薬品局(FDA)は、2021年4月30日にSGLT2阻害薬ダパグリフロジンのCKDへの適応拡大を承認した。そして、同年8月25日に国内においても2型糖尿病合併の有無にかかわらず、慢性腎臓病(ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く)のSGLT2阻害薬ダパグリフロジンの効能または効果の追加が承認された。
また、ダパグリフロジンを用いたランダム化比較国際共同臨床試験であるDECLARE-TIMI58試験[DECLARE:Dapagliflozin Effect on Cardiovascular Events(心血管系イベントに及ぼすダパグリフロジンの影響)]は、複数の心血管リスク因子、あるいは、心血管疾患の既往歴を有する患者を含む、心血管系イベントリスクがある国内を含めた成人2型糖尿病患者を対象に行われ、ダパグリフロジン治療群における心腎複合イベントや、末期腎不全または腎関連による死亡リスクなどの低減が示されている。
ダパグリフロジンの費用対効果、日本含む複数国の臨床試験をもとに調査
今回、CKD治療薬として国内で初めて承認されたSGLT2阻害薬ダパグリフロジンの費用対効果について、日本を含めた複数国において産学連携国際共同研究を行った。
DAPA-CKD試験とDECLARE-TIMI58試験の結果、SGLT2阻害薬ダパグリフロジンによる心腎代謝連関病態の改善効果が示されたが、今回の研究では、2つの臨床試験が行われた国々の中で、日本、英国、スペイン、イタリアを対象として、幅広い慢性腎臓病集団におけるSGLT2阻害薬ダパグリフロジンの費用対効果の推定を行った。研究グループは、DAPA-CKD試験およびDECLARE-TIMI58試験の患者レベルデータを用いて、DAPA-CKD試験に基づき公表されたマルコフモデルを、尿中アルブミン/クレアチニン比に関係なく、より広範な集団に適応させた。費用効果分析は文献とDAPA-CKD試験からの情報を取り入れて行われ、分析では生涯を見通した医療システムの視点が考慮された。
日本で予測余命0.84年延長、費用対効果高いと判明
その結果、SGLT2阻害薬ダパグリフロジンの投与により慢性腎臓病の進行が抑制され、日本では予測余命が0.84年延長(14.75年対13.91年)すると推定され、英国、スペイン、イタリアでも同様の推定結果が得られた。臨床上の改善効果として、各国で0.45~0.68年の平均質調整生存年(QALY)上の利益に相当すると評価された。そして、費用対効果の評価では、質調整生存年(QALY)獲得あたりの増分費用効果比(ICER)を推定し、例えば日本では、ICERが<500万円/QALYであれば、費用対効果が高いと判断される。今回の研究では、日本、英国、スペイン、イタリアにおけるICERは、それぞれ1万3,723ドル/QALY (127万7,919円/QALY)、1万676ドル/QALY、1万4,479ドル/QALY、7,771ドル/QALYであったことから、国別の支払い意思閾値において費用対効果に優れることが明らかになった。さらに、サブグループ解析では、ダパグリフロジンは尿中アルブミン/クレアチン比や2型糖尿病の状態にかかわらず費用対効果が高いことが示唆され、これらの結果から国内CKD治療薬として初承認されたSGLT2阻害薬ダパグリフロジンは費用対効果的にも優れることが明らかにされた。
CKD診療連携体制の構築・強化にもつながると期待
今回の研究結果から、SGLT2阻害薬ダパグリフロジンによる治療は、英国、スペイン、イタリア、日本の医療制度において費用対効果に優れることが明らかにされ、2型糖尿病の有無にかかわらず、これまでに示されたよりも広い範囲の推定糸球体濾過量およびアルブミン尿量のCKD患者に対して費用対効果がある可能性も考えられた。
CKD診療において、費用対効果を含めての研究は依然として少ないが、それでも最近では国内のFROM-J研究(腎疾患重症化予防のための戦略研究)や日本腎臓学会の厚生労働科学研究班によって、かかりつけ医/非腎臓専門医と腎臓専門医の連携の強化を図り、多職種協働による生活習慣や食事指導の強化介入が腎機能障害進行を抑制し費用対効果に優れることも報告されている。2024年診療報酬改定でも「慢性腎臓病透析予防指導管理料」が新設された。「国内でCKD治療薬として初めて承認されたSGLT2阻害薬が、CKD治療薬として費用対効果的にも有用であることが示されたことで、CKDに対する健診からの受診勧奨やCKDに対する積極的な治療の推奨を含めてCKD診療連携体制の構築・強化と、そのための提言や政策提案が費用効果分析的観点からも支持されると考えられる」と、研究グループは述べている。
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