受精後20週以前に骨盤の性差を調べた例は少なかった
京都大学は5月20日、受精後9週から23週に相当する頭殿長(頭頂部から臀部下部までの直線の長さ)が50~225mmのヒト胎児標本72体のMRI画像を取得し、さまざまな部位の計測と重回帰分析を行って性差を検討したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科人間健康科学系専攻の金橋徹助教、高桑徹也教授、山田重人教授、情報学研究科情報学専攻の今井宏彦助教、滋賀医科大学医学部附属病院臨床研究開発センターの松林潤特任助教、島根大学医学部解剖学講座の大谷浩教授(現:島根大学学長)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」にオンライン掲載されている。
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思春期以降のヒトの骨盤に性差が見られることは広く知られているが、具体的にいつからその性差が現れるのか。この点について、多くの研究者が興味を持ち、解析に取り組んできた。しかしながら、これまでの研究成果を見ると、ヒト胎児骨盤の性差の有無については意見が分かれている。さらに、これまでの研究は、主に受精後20週以降の胎児を対象としており、20週以前を対象とした解析は十分ではなかった。そのため、研究グループは、外性器の肉眼観察から胎児の性別を判定できる最も早い時期であり、軟骨組織から骨組織への置き換え(一次骨化)が開始する受精後9週(頭殿長50mm)からのヒト胎児標本を対象として、骨盤の性差を検討することにした。
京都大学と島根大学が保有するヒト胎児標本群使用、MRI画像から骨盤の立体像作成
研究グループはヒト胎児標本のMRI画像を取得した後、画像解析ソフトを用いて骨盤の立体像を作成した。ヒト胎児標本は、京都大学医学研究科附属先天異常標本解析センターと島根大学医学部解剖学講座が保有する標本群を使用した。この標本群は、世界最大規模の研究リソースとして知られており、その利用については京都大学大学院医学研究科・医学部および医学部附属病院医の倫理委員会の承認のもとで研究が行われている。
頭殿長50~225mmのヒト胎児標本72体解析、骨盤上口の前後径などで有意な性差
ヒト胎児の性別は外生殖器の肉眼観察から判定した。肉眼観察を用いた正確な性別判定は、頭殿長50mmの大きさの胎児から十分に可能である。この研究では、頭殿長が50mmから225mmまでのヒト胎児標本72体(男児;34体、女児;38体)のMRI画像を、前臨床用7Tおよび臨床用7T、3TMRI装置を用いて取得した。作成した骨盤の立体像から、解剖学的特徴をもつ2点間の距離や角度を21か所測定した。また、距離のデータを用いて計20個の比を算出した。これらの計測結果と重回帰分析を用いて性差を検討した。
その結果、骨盤上口の前後径、さらに骨盤上口の前後径に対する横径の比や、恥骨下角、大骨盤の横径(腸骨稜間距離、上前腸骨棘間距離)に対する坐骨棘間距離の比に有意な性差が確認された。今回の研究成果から、これまでの報告よりも早い一次骨化が開始する受精後9週から、既にヒト胎児の骨盤には性差が存在することが示唆される。
骨盤以外の骨格系の性差にも着目する予定
研究成果は、ヒト骨盤の性差に関する理解に大きく貢献し、さらに骨盤形成の男女の違いについて、発生学や人類学などのさまざまな領域に新たな視点をもたらすことが期待される。
今回の検討では、なぜ一次骨化開始期から既に性差が存在するのかについては明らかにできていない。また、今回の研究は骨盤のみに着目したが、同時期の骨盤以外の骨格系にも既に性差が見られるかもしれない。「ヒトの形態形成をより深く本質的に理解するために、今後も解析を継続していく必要がある」と、研究グループは述べている。
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