多くの患者が再発するが、再発時に有効な治療がなかった
ファイザー株式会社は5月22日、抗悪性腫瘍剤の「エルラナタマブ(遺伝子組換え)」(製品名:エルレフィオ(R)皮下注44mg、同76mg)を発売した。効能・効果は「再発または難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)」。用法・用量は「通常、成人にはエルラナタマブ(遺伝子組換え)として、1日目に12mg、4日目に32mgを1回皮下投与する。8日目以降は1回76mgを1週間間隔で皮下投与する。なお、24週間以上投与し、奏効が認められている場合は、投与間隔を2週間間隔とすること」。
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多発性骨髄腫は、造血幹細胞から分化成熟する形質細胞に由来し、進行性で根治が困難な血液がん。健康な形質細胞は、体内に侵入した細菌やウイルスなどの感染への抵抗を助ける抗体を産生する。血液がんで2番目に多く、日本では7,500人以上、世界では約17万6,000人が毎年新たに診断されている。多発性骨髄腫患者の約半数は診断から5年以内に死亡し、多くの患者が再発した疾患に対して4ライン以上の治療を受ける。疾患の経過は患者により異なるが、ほぼ全ての患者で再発が認められ、治療を繰り返す。
日常診療などから得られたデータによると、再発・難治の多発性骨髄腫患者は、数回の治療後に3つの主要なクラスの薬剤(免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬、抗CD38モノクローナル抗体)に対して耐性を示すことが多い。その後の治療でもこれらの薬剤を繰り返し用いることが一般的となっているが、十分な効果が期待できない。再発・難治の多発性骨髄腫の患者における治療の目標は、疾患のコントロールに加え、治療が許容可能な毒性であることと、生活の質を改善することだ。また、これらの3クラスの薬剤に対して再発・難治となった患者に対する標準的な薬物治療はなかった。
多発性骨髄腫に対する初の二重特異性抗体製剤
通常、抗体は一つの標的を認識して結合するが、二重特異性抗体は異なる二つの標的を認識して結合することができる。同薬は、B細胞成熟抗原(BCMA:B-cell maturation antigen)とCD3を標的とした二重特異性抗体の皮下投与製剤。骨髄腫細胞のBCMAおよびT細胞のCD3に結合し、T細胞による細胞傷害性を活性化することで骨髄腫細胞の細胞死を誘導する。2023年8月に米国で初めて承認され、現在、欧州連合、スイス、ブラジル、カナダ、英国で、再発または難治性の多発性骨髄腫の治療薬として承認されている。国内では、2023年6月29日に製造販売承認申請、2024年3月26日に承認され、同年5月22日に薬価基準に収載された。
臨床試験で臨床的に意義のある奏効率示す
同薬の承認は、国際共同第2相試験(MagnetisMM-3試験)および国内第1相試験(MagnetisMM-2試験)の結果などに基づく。MagnetisMM-3試験は、再発または難治性の多発性骨髄腫患者を対象に、同薬単剤投与の有効性および安全性を評価する第2相、非盲検、単群、多施設共同試験だ。同試験は、免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬および抗CD38モノクローナル抗体それぞれ少なくとも1剤ずつに抵抗性を示す多発性骨髄腫患者を対象とし、治療歴にBCMAを標的とした治療のない患者がコホートA(123例)、治療歴にBCMAを標的とした治療のある患者がコホートB(64例)に参加した。28日を1サイクルとして、同剤76 mgを週1回皮下投与し、最初のサイクルでは2段階プライミング投与として1日目に本剤12 mg、4日目に32 mgを皮下投与した。同剤の投与を6サイクル以上受け、部分奏効以上の奏効が少なくとも2か月間継続した患者では、投与間隔を2週間に1回とした。
主要評価項目である奏効率について、コホートAおよびコホートBで臨床的に意義のある結果が認められた。主な有害事象はサイトカイン放出症候群、貧血、好中球減少症、下痢、血小板減少症、疲労、食欲減退、リンパ球減少症、注射部位反応、発熱、悪心および低カリウム血症だった。
同社取締役執行役員オンコロジー部門長のジョンポール・プリシーノ氏は次のように述べている。「多発性骨髄腫の患者の約75%が60歳以上と報告されており、超高齢化社会が進展する日本において本領域で貢献することは、当社の重要なミッションのひとつ。今後も関連学会や医療機関と連携し、エルレフィオの適正使用推進に努めるとともに、がんと闘う患者と家族にブレークスルーをお届けできるよう、新薬の開発にも取り組んでいきたい」。
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・ファイザー株式会社 プレスリリース