治験参加者のctDNAを解析し、遺伝子異常と治療効果との関連を検討
国立がん研究センターは5月20日、HER2陽性の切除不能・進行胃がんを対象にトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)を評価したDESTINY-Gastric01試験の参加患者の腫瘍検体やリキッドバイオプシーから、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を解析し、遺伝子発現や遺伝子異常と治療効果との関連を検討するバイオマーカー研究を実施し、その成果を発表した。この研究は、同センター東病院消化管内科の設楽紘平科長、第一三共株式会社らの研究グループによるもの。研究成果は「Nature Medicine」に掲載されている。
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DESTINY-Gastric01試験は、日本と韓国で実施された非盲検無作為化第2相試験。主要コホートでは、HER2陽性(Immunohistochemistry:IHC3+もしくはIHC2+かつin situ hybridization:ISH陽性)切除不能進行・再発胃がん、または胃食道接合部腺がん(以下「胃がん」)患者を対象に、T-DXdと化学療法を比較した。両国から187例が登録され、主要評価項目である奏効割合と副次的評価項目である全生存期間の有意な改善を認めた。また、探索コホートではT-DXdのHER2低発現例に対する一定の有効性が確認された。しかし、これらの治験ではどのような患者にT-DXdの効果が発揮されやすいか明らかではなかった。
治療前HER2 mRNA高発現の患者は奏効割合が高い傾向
そこで、研究グループは腫瘍検体やリキッドバイオプシーを解析し、遺伝子異常と治療効果との関連を検討するバイオマーカー研究を実施した。研究対象はT-DXd投与を受けた患者167例。そのうち151例でリキッドバイオプシー用のサンプルが採取され、治療直前の腫瘍検体は計48例から採取した。
結果、主要コホートにおける治療前のHER2状態(IHC3+またはIHC2+/ISH+)、HER2遺伝子(mRNA)発現、ctDNAにおけるHER2増幅コピー数、および血清HER2タンパク質(細胞外ドメイン)値のいずれも高い患者ほど奏効割合が高いという一貫した傾向が示された。
また、HER2 mRNAが高い患者(n=16)は、発現が低い(中央値9.72未満と定義)患者(n=17)と比較して奏効割合が高い傾向にあった(81.2% vs 23.5%)。同様に、ctDNAにHER2増幅を認める患者(n=71)は、増幅を認めない患者(n=38)と比較して奏効割合が高い傾向だった(60.6% vs 34.2%)。HER2機能獲得変異は、評価可能例(109例)の11%(12例)に検出され、HER2 IHC3+かつ遺伝子変異を有する患者の奏効割合は87.5%(8例中7例)だった。
血中HER2タンパク質値11.6ng/mL以上の奏効割合36.7%
HER2低発現を含む探索的コホートにおいては、治療前の血中HER2細胞外ドメイン値が探索的カットオフ値11.6ng/mL以上の患者(n=30)の奏効割合は36.7%であり、カットオフ未満の患者(n=10)の0%と比較して高い傾向だった。生存期間についても同様の傾向が示唆された。さらに、T-DXdの有効性は、HER2発現を検討した腫瘍組織の採取されたタイミングにかかわらず一貫して化学療法よりも優れている傾向が確認された。
MET、EGFR、FGFR2検出患者の奏効割合は低い傾向
ctDNAを用いた遺伝子パネル検査技術による解析を実施したところ、奏効割合は、MET増幅を有する患者(n=8)で25%、EGFR増幅を有する患者(n=28)で32.1%、FGFR2増幅を有する患者(n=6)で0%であり、全集団よりやや低い傾向だった。一方でKRASやNRAS遺伝子変異を有する場合(n=16)の奏効割合は50%だった。
獲得耐性に関わる可能性のある因子を発見
治療前後のリキッドバイオプシーの比較において、T-DXd治療を受ける前に45%(37/82)の患者においてctDNA上HER2の遺伝子増幅を有していたが、治療終了時には33%(27/82)に減少していた。また、終了時のサンプルの中には、新規のTOP1遺伝子異常を認めた患者が3例確認され、HER2遺伝子増幅の消失やT-DXdの殺細胞薬としての標的であるTOP1遺伝子の後天的な遺伝子変異が、T-DXdの抵抗性獲得に関わっている可能性が示唆された。
「HER2陽性胃がんに対してT-DXdを投与する際に腫瘍検体や血液検体によるリキッドバイオプシーの検討により、効果が高く期待される患者が同定される可能性が示唆された。同時に薬剤耐性の機序の一端が明らかとなり、今後さらなる治療開発に役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース