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ヒト前精原/卵原細胞、iPS細胞から試験管内で大量に分化誘導する方法を開発-京大

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2024年05月23日 AM09:00

異種間再構成卵巣法による卵原細胞への分化、改善要する点が多く残る

京都大学は5月21日、ヒトiPS細胞から、(Primordial Germ Cells:PGCs)を経て、精子および卵子のもととなる前精原細胞および卵原細胞を大量に分化誘導する方法論の開発に成功したと発表した。この研究は、同大高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)の村瀬佑介特定研究員、横川隆太博士課程学生(同大大学院医学研究科)、斎藤通紀ASHBi拠点長/主任研究者(兼:同大学院医学研究科教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

生殖細胞は遺伝情報の伝達を担う唯一の細胞である。一代限りで役割を終える体細胞とは対照的に、生殖細胞に起きた変異は次世代に継承され生物の進化の原動力になるとともに、その異常は不妊や遺伝性疾患の原因となる。こうした生物学的・医学的重要性にも関わらず、倫理的・技術的な制約、適切な研究方法の欠如から、ヒト生殖細胞の発生機構は多くの点が不明なままである。

ヒト胚において、PGCsは受精後2週に形成され、それらは受精後6〜10週に精巣および卵巣内で前精原細胞および卵原細胞に分化する。その後、前精原細胞は精原細胞を経て精子に、卵原細胞は卵母細胞を経て卵子に分化する。研究グループは、これまでの研究で、ヒトiPS細胞からヒトPGC様細胞(PGC-like cells:PGCLCs)を誘導する方法、そして異種間再構成卵巣法を用いることでヒトPGCLCsを卵原細胞に分化させる方法を報告してきた。しかしながら、異種間再構成卵巣法では、卵原細胞の分化過程が不明瞭で得られる卵原細胞の数が著しく少なく、分化がマウス胎児卵巣体細胞に依存するなど、多くの改善を要する点があった。

BMP用いた培養法を確立、分化した前精原/卵原細胞を4か月で100億倍近く増幅

今回の研究では、研究グループが開発したヒトPGCLCsの維持培養法を出発点として、シグナル分子を含む種々の添加物を検討することで、異種間再構成卵巣法で見られる細胞生存率の低さ、マウス胎児卵巣体細胞への依存を克服し、前精原細胞および卵原細胞を効率良く分化させる方法論の確立を目指した。

さまざまなシグナル分子やシグナル伝達経路を制御する化合物のヒトPGCLCsに対する影響を評価したところ、骨形成因子(Bone Morphogenic Protein:BMP)ファミリーのBMP2/4/7が前精原細胞および卵原細胞の分化に特徴的な遺伝子発現を誘導することを見出した。BMPを用いる培養法を検討した結果、ヒトPGCLCsを2か月程で前精原細胞および卵原細胞に分化させ、また、染色体数を安定に維持したまま、4か月程で細胞数を〜1010倍(〜100億倍)に増幅させることに成功した。

PGCs分化過程で見られるエピゲノムリプログラミング機構、一端を解明

BMPシグナルに引き起こされる遺伝子発現変化を網羅的に評価したところ、ヒトPGCLCsは、生体での分化との類似した過程を経て、前精原細胞および卵原細胞様の状態へと分化することが確認された。さらに、全ゲノムDNAメチル化解析から、BMPシグナルによるヒトPGCLCsの前精原細胞および卵原細胞への分化は、ゲノムワイドなDNA脱メチル化を伴っていることが明らかとなり、生体内のPGCsの分化過程で見られるエピゲノムリプログラミングが試験管内で再現されていることが明らかとなった。また、本培養法を用いて、エピゲノムリプログラミングの分子機構の重要な一端を解明した。

メカニズム解析などヒト生殖細胞で不可能だった研究を推進できる可能性

開発した培養法を用いることで、膨大な量のヒト前精原細胞および卵原細胞を作製することができる。多くの細胞を必要とするメタボローム解析、プロテオーム解析やエピゲノムリプログラミングの詳細なメカニズム解析など、ヒト生殖細胞ではこれまで不可能であった未踏の研究を推進できる可能性が拓けた。また、培養法の確立によって、ヒト前精原細胞および卵原細胞を得ることが比較的容易になり、それらから(生物学的に明確な条件下を含め)ヒト精原細胞や卵母細胞を誘導する研究が飛躍的に進むと期待される。「培養にはまだ改良の余地があり、より生物学的に明確な条件下で前精原細胞および卵原細胞の分化を誘導する培養法の確立は非常に重要な研究となる」と、研究グループは述べている。

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