内腸骨静脈の末梢分岐を描出した研究はなかった
兵庫医科大学は5月17日、直腸がん局所再発手術における出血リスクの減少を目指した内腸骨静脈の正確な描出に成功したと発表した。この研究は、同大病院 放射線技術部 放射線技師の城本航氏と下部消化管外科の木村慶講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Magn Reson Imaging」に掲載されている。
直腸がん局所再発では、初回手術で剥離された層を再度剥離することとなり、解剖学的同定が困難な難易度の高い術式となる。また、内腸骨静脈の分岐形態は非常に複雑だ。これまで、内腸骨静脈の第1-2分岐まではCTやMRIを用いて評価している研究は見られるが、直腸がん局所再発の手術で最も重要となる末梢分岐を描出した研究はない。
そこで研究グループは今回、心臓血管の描出に優れる「MRI True-FISP」というシークエンスを用いて、内腸骨静脈の描出を行うことにした。
直腸がん局所再発手術が必要な患者11人を対象に、内腸骨静脈を描出
研究では、2023年3~11月までに直腸がんの局所再発手術が必要な11人の患者を対象とした。CTはヨード造影剤を用いてCT血管造影法で、MRIはTrue-FISP法を用いて撮影。さらに、血管が明瞭に描出できるようT1短縮作用のあるガドリニウム造影剤、腸管蠕動によるアーチファクトを抑えるための抗コリン薬・ブチルスコポラミンを投与した。
手術中に参照できるよう血管や骨盤解剖を3D再構築するため、CTで得られた内腸骨血管とMRIで得られた内腸骨血管を画像解析システム「SYNAPSE VINCENT(R)」を用いて行い、血管描出の評価は、内腸骨血管が最も近接する筋肉である梨状筋とのコントラスト比を測定し評価した。
CTとMRIのフュージョンの歪みの補正に成功、手術で活用できるレベルに
その結果、内腸骨静脈のコントラスト比はCTで0.23、MRIでは0.55と、MRIでの内腸骨静脈のコントラスト比が優位に高い結果となった(p<0.01)。
さらにCTとMRIのフュージョンで歪みを評価し、左右の坐骨棘、坐骨棘~尾骨や坐骨棘から上殿動脈分岐部までの直線距離を測定した結果、誤差の平均値は1mm未満であり、CTとMRIのフュージョンにおける歪みは認めず、骨盤や動脈を重ねることで手術に活用できる画像になった。
さらに症例を増やして過去の症例との比較を行い、出血量の軽減の検討が必要
今回の検討結果から「MRI True-FISPシークエンス法を用いることは、正確に内腸骨静脈の末梢分岐まで描出できる」ということが示唆された。しかし、同検討では症例数が少ないため「本症例をさらに集積し、これまでの症例との比較を行うことで出血量の軽減について検討する必要がある」と、研究グループは述べている。
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・兵庫医科大学 ニュースリリース