亜鉛は本当に風邪に効く?
米国では、風邪やインフルエンザの季節になると、「鼻水に効く」という触れ込みの亜鉛のトローチやスプレー、シロップの広告をあちこちで目にするが、実際の効果はどれほどのものなのだろうか。新たな研究で、亜鉛を風邪の治療薬として用いると、罹患期間が2日ほど短縮される可能性のあることが示唆された。研究グループは、「ただし、これは確定的なエビデンスではなく、また、亜鉛の使用には不快な副作用を伴うことがある」と注意を促している。米メリーランド大学医学部のSusan Wieland氏らによるこの研究の詳細は、「Cochrane Database of Systematic Reviews」に5月9日掲載された。
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研究グループの説明によると、多くの食品に含まれている必須ミネラルの亜鉛が風邪に効くと考えられているのは、亜鉛に、鼻や口、喉でのウイルスの複製を妨げる効果があると考えられているからだという。実際、実験室での研究では、ペトリ皿上やマウスの体内で亜鉛がウイルスの複製を妨げることが示されている。しかし、実際の人間においても同様の効果を発揮するのかどうかは明らかにされていない。
Wieland氏らは、CENTRALやMEDLINEなどを検索し、2023年5月22日までに発表された、亜鉛の一般的な風邪に対する治療や予防の効果をプラセボとの比較で検討した34件のランダム化比較試験(RCT)を選び出し、風邪の予防と治療における亜鉛の有効性と安全性を検討した。34件のRCTのうち15件は亜鉛の風邪予防効果、19件は亜鉛の風邪治療効果に関するものだった。34件中17件のRCTは、亜鉛を酢酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、オロチン酸亜鉛のトローチとして投与していた。このうち、最も多かったのはグルコン酸亜鉛(9件のRCT)で、1日当たりの投与量は45〜276mg、投与期間は4.5〜21日にわたっていた。トローチ以外の投与法には、カプセル、錠剤、溶解させた粉末の摂取や経鼻投与があった。
解析の結果、亜鉛の風邪予防効果はほとんど、あるいは全く認められないことが明らかになった。亜鉛使用者で非使用者に比べて、風邪を引くリスクが有意に低下することはなく〔リスク比0.93、95%信頼区間(CI)0.85〜1.01、9件のRCT〕、また5カ月から18カ月に及ぶ追跡期間中に風邪を引いた回数(平均)が有意に減ることはなく(平均差−0.90、95%CI −1.93〜0.12、2件のRCT)、さらに、追跡期間中に風邪を引いた場合の罹患期間が有意に短縮されるわけでも(平均差−0.63、95%CI −1.29〜0.04日、3件のRCT)、症状の重症度が軽減するわけでもなかった(標準化平均差0.04、95%CI −0.35〜0.43、2件のRCT)。
亜鉛の風邪治療効果については、平均罹患期間が有意に短縮する可能性のあることが示された(平均差−2.37、95%CI −4.21〜−0.53、8件のRCT)。しかし、追跡調査終了時点で風邪が続いているリスクの低下(リスク比0.52、95%CI 0.21〜1.27、5件のRCT)や症状の重症度の軽減(標準化平均差−0.03、95%CI −0.56〜0.50、2件のRCT)に対する効果については不確かだった。
研究グループはさらに、亜鉛の摂取には腸の症状や吐き気などの副作用を伴うことや、不快な味がすることについても指摘している。論文の筆頭著者である、米メリーランド大学統合医療センターのDaryl Nault氏は、「風邪の治療に亜鉛の使用を考えている人は、限られたエビデンスと副作用の可能性を知っておくべきだ。最終的に、不快な副作用が生じるリスクを承知の上で、風邪の罹患期間が数日だけ短縮する可能性を選ぶのかどうかは、その人次第だ」とコクランのニュースリリースの中で述べている。
研究グループは、今回のエビデンスレビューの問題点として、亜鉛の投与量や摂取方法、対象者の健康状態の報告や測定の方法が研究ごとに大きく異なっていることを挙げている。Wieland氏はこの点を踏まえて、「今後の研究では、亜鉛の投与や治療成果の報告、アウトカムの定義について、標準化された方法を採用すべきだ」と主張する。また、「最も有望な亜鉛製剤の種類と用量に焦点を当て、患者にとって重要な転帰を評価するために適切な統計学的方法を用いた今後の研究によって、亜鉛が風邪の治療に有効かどうかを理解することができるだろう」と述べている。
▼外部リンク
・Zinc for prevention and treatment of the common cold
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