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発育期の野球選手の「腰椎分離症」、投手と野手で発生部位に違いを発見-筑波大ほか

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2024年05月20日 AM09:30

運動時に左右差がある投球や打撃の動作と腰椎分離症が発生する部位との関連は?

筑波大学は5月14日、発育期の野球選手における腰椎分離症の発生部位の左右差を投手と野手に分けて調査したところ、投手では投球する側とは反対側で、より頻繁に腰椎分離症が発生することを見出したと発表した。この研究は、総合病院水戸協同病院の辰村正紀整形外科部長(研究当時:筑波大学医学医療系/筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター准教授)、同大大学院人間総合科学学術院医学学位プログラム 照屋翔太郎氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Asian Spine Journal」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

腰椎分離症は、成長期にある小学生から高校生までのスポーツ選手によくみられる腰の背骨(腰椎)の疲労骨折で、発育期の代表的なスポーツ障害の一つとして知られている。疲労骨折は繰り返し同じ動作を行うことで発生するため、練習を繰り返すスポーツ選手に多いとされ、特に野球のように投げる動作が多いスポーツをする子どもたちによくみられる。

腰椎分離症は慢性的な腰痛の原因となり、治療開始後の数か月間は競技からの離脱を余儀なくされるだけでなく、体育を含めて全てのスポーツ活動を休止する必要がある。高いパフォーマンスが要求される競技レベルの選手にとっては後の選手生命にも大きく関わってくる問題であるため、発生予防と早期発見が重要とされている。

腰椎分離症の発生は腰をそらす動作とひねる動作が関連している。このため、片方だけ腰をひねることが多い野球では、片側の分離症が多いとされている。野球では投球時や打撃時に右半身と左半身で異なる動きがあり、体の片方のみに大きな負荷がかかると予想されるが、これまで腰椎分離症発生の左右差と投球側(右投げか左投げか)や、打撃側(右打ちから左打ちか)との関連、または、投手と野手との間で腰椎分離症の特性に違いがあるか否かは明らかではなかった。そこで研究グループは今回、運動時に左右差がある投球や打撃の動作と腰椎分離症が発生する部位との関連を、投手と野手とに分けて評価した。

平均14.8歳の野球選手85人を対象に、分離症の発生側と投球/打撃側の関連性を調査

研究では、2014年4月〜2021年3月までに腰椎分離症と診断された小学生から高校生までの野球選手のうち、85人の選手を対象とした。このうち30人が投手、55人が野手で、平均年齢は14.8歳だった。腰椎分離症の発生は第2腰椎から第5腰椎に及び、10人の選手は同じ腰椎の左右両側での発生(両側性)や複数の腰椎での発生があった。左右で見ると分離箇所は腰椎の右側に65個、左側に81個あった。

さらに、初回受診時に年齢、投球側(右投げか左投げか)、打撃側(右打ちか左打ちか)、および守備位置のデータを収集。腰椎分離症に関しては、片側性または両側性、病変の左右を評価した。対象者は投手と野手の2つのグループに分け、分離症の発生側と投球/打撃側の関連性を全体のグループで評価し、さらに投手/野手グループを比較した。

腰椎分離症が投球側の反対側に頻繁に見られるメカニズムを解明

野球に特有な動作として、投球と打撃がある。これらは体にかかる負担が左右で異なる。これらの動きを独立して分析すると、投手の場合、投球側と腰椎分離症の発生側についての有意な関連が見られた。野手においては、投球/打撃動作ともに腰椎分離症の発生側と関連はみられなかった。

腰椎分離症は腰をそらす動作やひねる動作により、慢性的に腰椎に負荷が集中して引き起こされる。ひねる動作については、ひねる方向と反対側に負荷がかかりやすいと言われている。投球動作解析によれば、コッキング期から加速期にかけて、上半身より先に下半身でひねり動作が始まる。そのため、右投げの場合は腰を右側へひねることになる。また、投手は投球中に腰を後ろにそらすと報告されている。つまり、右投げの投手では投球中は腰の右へのひねりと後ろへのそらしが同時に起こり、それにより慢性的な左側への負荷がかかるとされている(左投げの投手では、この逆になる)。つまり、これが「腰椎分離症が投球側の反対側に頻繁に見られるメカニズム」と考えられた。

野手で関連がみられなかったのは打撃の腰への負荷が投球ほどではない可能性

このように、投球側と腰椎分離症の発生部位の関連は投手では示されたが、野手では投球側と発生部位とに有意な関連は示されなかった。投球中のひねりの大きさを測定した報告によれば、投手は野手よりも腰をより大きくひねることがわかっている。投手の投球動作そのもの、投球数の多さ、投球の強度などが今回の結果につながったと考えられる。

また、打撃側と腰椎分離症の発生部位にも有意な関連は見られなかった。例えば、右打者の場合、左へひねる際に右側に負荷が集中する。このため、打撃と同じ側により多くの分離症が見られると予想された。打撃についてはフォロースルー期で負荷が最も高くなるが、ひねりの強度は投球ほどではない。そのため、打撃側と腰椎分離症の発生部位とに関連が見られなかったと考えられる。打撃による腰への負荷は投球ほど高くないだけでなく、右投げ右打ちの選手では、負荷が投球で左側、打撃で右側に分散されている可能性もある。

発育期の野球選手の将来的なスポーツ障害発生予防につながることに期待

今回の研究では、腰椎分離症が投手では投球する側とは反対側で、より頻繁に発生することが見出された。ただし、一部の症例では投球側と同じ側に腰椎分離症があった。野球は投球や打撃など非対称性の運動が多いスポーツでありながら、他のスポーツと同様に走る動作や守備など負荷が左右対称である運動も多くある。これも、野手において発生位置に一定の傾向がなかったことの原因の一つと考えられた。

「今回の新知見を、発育期の野球選手に加え、指導者および保護者などスポーツの現場を支える多くの人々に広く普及させていくことで、発育期の野球選手における将来的なスポーツ障害の発生予防につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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