心血管病発症リスクが一般的な高血圧に比べ2~4倍、早期発見が重要
東北大学は5月13日、原発性アルドステロン症(PA)におけるアルドステロン産生腺腫(APA)診断について、RIA法とCLEIA法を比較検証し、CLEIA法はRIA法に比較して優位に高いことを明らかにし、新たな診断基準値を確立したと発表した。この研究は、同大病院糖尿病代謝・内分泌内科の小野美澄助教、東北大学大学院医学系研究科の佐藤文俊客員教授、富士レビオ株式会社が共同で行ったもの。研究成果は「Journal of the Endocrine Society」に掲載されている。
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全国で4300万人いるとされる高血圧症患者の約10%が、PAが原因とされている。PAとは、副腎という腎臓の上に位置する臓器においてアルドステロンという血圧上昇ホルモンが過剰に分泌されることで、高血圧や体内ミネラルの一種であるカリウムの血中濃度が低下する疾患である。高血圧症は、心不全や心筋梗塞、脳卒中の強力な発症リスク因子で、その中でもPAは一般的な高血圧(本態性高血圧)と比較して心血管病の発症リスクが2~4倍とされている。高血圧診療においてはPAの早期発見と適切な治療により、脳卒中や心臓病、慢性腎臓病などの合併症が進行を予防することが可能となるが、実際の診療ではPAが見逃されることが多いのが現状だ。
新アルドステロン測定法のCLEIA法、APA診断基準は不明確
PAは左右2つの副腎が同程度のアルドステロン分泌をする場合(両側性病変)と、左右2つの副腎のどちらか片方のみが過剰にアルドステロン分泌をする場合(片側性病変・BHA)に大別される。片側性病変のほとんどはAPAと呼ばれる腫瘍が原因で、APAのある側の副腎を腹腔鏡手術で摘出したり、近年開発されたラジオ波焼灼術で原因部位を焼き切ったりすることで、アルドステロン過剰分泌が治癒し、高血圧を根治もしくは改善することができる。
APAを診断するためにはいくつかのプロセスが必要となるが、その中でもAVSというカテーテル検査によって、左右2つの副腎のアルドステロン分泌度合いの差を調べ、手術治療あるいはラジオ波焼灼術の適応があるかを決定する。AVSは大学病院のような限られた医療機関でしか実施できない検査であり、なるべくAPAである事前確率を高める必要がある。
PAであるかどうかは血液中のアルドステロンや腎臓からのレニンの基礎値測定を行い、その後、機能確認検査(カプトプリル負荷試験や生理食塩水負荷試験など)で確定診断を行う。2021年にアルドステロン測定方法がRIA法からCLEIA法に変更となり、新測定法での新たなPA診断基準について東北大学でも検証してきまた。しかしPAを含む高血圧症患者の中から、手術等で治癒し得るAPAを見つけるためのスクリーニング基準については明らかでなく、CLEIA新測定系での検証が求められていた。
PACとARR、いずれもCLEIA法のAPA診断能はRIA法に比べ優位に高い
今回、研究グループは、同大病院で診療を受けたPAを含む高血圧症患者の計344人分の検体を使用して、APA診断のためのPAC(単位ng/dL)およびPAC/血漿レニン活性比(ARR:単位ng/dLperng/mL/hr)カットオフ値についてCLEIA、RIAの各測定法の受信者操作特性曲線(ROC)とROC曲線下面積(AUC)解析により検証した。
その結果、PACにおけるAPA診断カットオフ値はCLEIA:13.4(AUC 0.919,感度83.5%,特異度85.3%)、RIA:25.0(AUC 0.906,感度81.2%,特異度84.8%)であり、ARRでのAPA診断カットオフ値はCLEIA:31.5(AUC 0.929,感度90.2%,特異度76.8%)、RIA:96.4(AUC 0.901,感度72.2%,特異度90.5%)であり、PACとARRいずれもRIA法に比較してCLEIA法のAPA診断能は優位に高いことが示された。
また、CLEIA法におけるAPA診断能について感度を100%とした場合、PACで6.0、ARRで15であり、これらの基準値を上回る際には積極的にAVSを行うことにより多くのAPAの見逃しを防ぎ得ることが示唆された。
APA見逃しを防ぎ、心血管病・脳卒中リスク低下に期待
PAは心血管病や脳卒中のリスクが高い二次性高血圧症の一つであるが、その中でもAPAが原因の場合は手術もしくはラジオ波焼灼術で治癒する見込みがある。「今回の研究結果から、副腎静脈サンプリングを行わねばならない基準を示すことによって、より多くの治癒すべき患者の見逃しを防ぎ、将来の心血管病や脳卒中のリスクを低下させ、より良い健康的な生活ができるようになることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース