血行再建術が必要な下肢閉塞性動脈疾患と冠動脈疾患の患者を比較
大阪大学は5月2日、下肢閉塞性動脈疾患のため血行再建術が必要となった人は、冠動脈疾患のために血行再建術が必要となった人に比べて、死亡率が高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の髙原充佳講師(病院臨床検査学、研究当時:糖尿病病態医療学)、小倉記念病院の曽我芳光部長(循環器内科)、大阪警察病院の飯田修部長(循環器内科)らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Heart Journal」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
動脈硬化による下肢閉塞性動脈疾患患者では、他の心血管疾患を合わせ持つことが多いこと、そうしたことが相まって死亡リスクも高いことが指摘されていた。これまでも、病状の安定した患者を対象として、下肢閉塞性動脈疾患と冠動脈疾患を比較した調査結果はいくつか報告されていた。しかし、血行再建術が必要となるような、病状の進んだ下肢閉塞性動脈疾患の患者の特徴や死亡リスクについて、同じく血行再建術が必要な冠動脈疾患の患者と直接比較したデータは乏しく、患者の特徴や死亡リスクは両者で似ているのか違うのかなどはよくわかっていなかった。
そこで今回研究グループは、全国多機関共同研究に参加した、動脈硬化による下肢閉塞性動脈疾患または冠動脈疾患に対して血行再建術を受けた患者1万754人のデータを分析し、死亡リスクを調べた。
下肢閉塞性動脈疾患患者、高年齢・慢性疾患併存・心血管保護薬の使用率が低い
その結果、下肢閉塞性動脈疾患の患者は、冠動脈疾患の患者と比べて死亡率が2.91倍も高いことが明らかになった。また、下肢閉塞性動脈疾患の患者は冠動脈疾患の患者よりも年齢が高く、他の心血管疾患を合わせ持つ人が多い傾向を認め、これらを調整しても両者の死亡率の差は29%縮まっただけで、下肢閉塞性動脈疾患の死亡率は依然2倍程度高くなっていた。
これまで、下肢閉塞性動脈疾患の死亡率の高さは、他の心血管疾患を合わせ持ちやすいことが主な要因と考えられてきたが、この結果からは、死亡率が高い要因はそれだけではなく、他にも要因があることを示唆している。そこで、その要因を調べたところ、下肢閉塞性動脈疾患の患者は、合併する慢性疾患(持病)の数が多い一方で、心血管保護薬の使用率が低い傾向が確認された。こうした違いも調整すると、下肢閉塞性動脈疾患と冠動脈疾患の死亡率の差は73%縮まったが、下肢閉塞性動脈疾患の死亡率は依然、統計学的に有意に高いままだった。
栄養不良、生活保護受給など医学的・社会的に弱い立場・状況にあることも判明
さらに詳しく調べてみると、下肢閉塞性動脈疾患の患者は冠動脈疾患の患者に比べ、栄養不良、フレイル、要介護状態、介護施設入所中、生活保護受給中の状態にある人の割合が相対的に高く、医学的・社会的に「弱い」立場・状況に立たされている人が多いことも明らかとなった。こうした医学的・社会的な「弱さ」は、年齢や病気の合併等さまざまな臨床背景を調整した後でも下肢閉塞性動脈疾患の患者の方に多く認めており、高齢であることや病気の合併の数が多いことだけでは説明できないことを示している。
背景の違いを調整後、両者の死亡率の差は86%減
最終的に、下肢閉塞性動脈疾患と冠動脈疾患の死亡率の違いについて、こうした医学的・社会的な「弱さ」も含めてすべての背景の違いを調整すると、両者の死亡率の差は86%縮まった。その結果、下肢閉塞性動脈疾患と冠動脈疾患の死亡率の差は統計学的に有意ではなくなった。
この結果は、冠動脈疾患と比べたときの下肢閉塞性動脈疾患の死亡率の高さは、高齢であったり他の心血管疾患を合わせ持ちやすかったりすることに加えて、合併する慢性疾患(持病)の数が多いこと、心血管保護薬の使用率が低いこと、医学的・社会的に「弱い」状況に立たされている人が多いこと、とも大きく関係していることを示している。
慢性疾患の適切管理、心血管保護薬の積極的使用などによる死亡リスク改善の可能性
冠動脈疾患と比べると、下肢閉塞性動脈疾患は患者の背景・特徴が大きく異なり、それが死亡率の高さと関係していることが明らかとなった。死亡率の高さと関係していた背景・特徴の中には、医学的、もしくは社会的に対処が可能なものも含まれており、対処によって下肢閉塞性動脈疾患の死亡リスク低減につながる可能性がある。たとえば、慢性疾患(持病)を適切に管理したり、心血管保護薬を積極的に使用したりすることで、下肢閉塞性動脈疾患の死亡リスクを減らせる可能性がある。さらに、医学的・社会的な「弱さ」に対する方策が死亡リスクの低減につながる可能性もある。「死亡リスクの高さと関係する因子が明らかになったことで、将来、下肢閉塞性動脈疾患の死亡率を下げる医学的・社会的アプローチの開発が進み、その取り組みにつながることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪大学大学院医学系研究科 研究成果