術後の体腔内異物遺残、ヒューマンエラーが原因のため完全には無くせず
長崎大学は5月10日、実際に手術室で術後に撮影されたX線画像をAIに読影させ、その有効性を検証した実臨床使用研究の結果を発表した。この研究は、同大病院移植・消化器外科の江口晋教授、曽山明彦准教授ら、富士フイルム株式会社の研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American College of Surgeons」に掲載されている。
術後の体腔内異物遺残は約2万分の1の割合で発生しており、ガーゼ遺残はその約半数以上を占めると言われている。ガーゼ遺残の予防策としては、従来ガーゼカウントやダブルチェック、術後のX線撮影が行われている。一方、ヒューマンエラーが原因となるため、完全には無くすことが出来ていない。
X線画像のガーゼ鉛線様の陰影をAIで、読影精度・検出パターンを前向き臨床研究で検証
長崎大学は富士フイルム株式会社の協力を得て、手術後に撮影したX線画像から高感度に手術用ガーゼに含まれている鉛線を検出する技術の研究・開発を行ってきた。同技術を搭載したアプリケーション型ソフトウェア(富士フイルム株式会社製)の有効性を明らかにするために、長崎大学病院にて前向き臨床研究を行った。具体的には、従来行っている手術後にガーゼチェック目的に撮像するX線画像を、AIシステムを搭載したX線撮像装置によって行い、ガーゼの鉛線様の陰影をAIが検出。検出された画像を解析し、AI読影の精度や検出パターンの解析を行った。
AIの特異度85.8%、感度は算出不可だったが有効活用できるレベル
今回の研究では、1,053枚の術後レントゲン画像をAIにより判別。実際に、ガーゼが遺残した症例はなかった。術後X線画像をAIが判断した結果、ガーゼの可能性があると判定したのは150枚。実際にはガーゼの遺残はなかったことから、過検出であったと言える。AIによってガーゼの可能性があると判断されたX線画像には、手術用のクリップやドレーン、腸管切除用のステイプラーなどで、ガーゼの鉛線と形態が類似しているものが含まれていた。AIによる特異度(AIが正しくガーゼ遺残なしと判定したものの割合)は85.8%。感度(AIが正しくガーゼ遺残ありと判定したものの割合)は実際にガーゼ遺残がなかったため算出不可だったが、システム開発時の特異度と差はなく、実臨床においても有効に活用できるものであると考えるとしている。
新器材の投入必要なし・従来手順に組み込み、費用面・診療時間「増」なしで導入可能
今回の研究結果は、AIによるX線画像読影が術後異物遺残を防止するための有効な手段となり得る。従来、医師の目のみで行っていた作業をAIによる異物認識支援を行うことで、異物遺残防止のために、さらに効果的なシステムの確立につながると考えられる。また、新たな器材を投入する必要がなく、従来行っていた画像読影の手順の中に組み込むことができるため、費用的な面や診療時間の著明な増加もなく導入することが出来る、と研究グループは述べている。
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・長崎大学 プレスリリース