看護師等の判定に不一致、患者の心理的負担などの課題
国立がん研究センターは5月7日、大腸内視鏡検査前処置時の排便性状をAIにより判定するアプリ「ナースコープ」を開発し、リリースしたことを発表した。この開発は、同センター東病院消化管内視鏡科の新村健介医長と株式会社Jmees(国立がん研究センター東病院から生まれたスタートアップ企業)が共同で実施したものだ。
画像はリリースより
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大腸内視鏡検査は、腸管内に便が残っていると適切な検査を行えなくなる場合があり、適切な「前処置」の実施、およびその評価が欠かせない。前処置とは、患者が大腸内視鏡検査前に腸管洗浄液(下剤)を服用し腸管内の便を排出することを意味しているが、患者自身、あるいは看護師等が検査前に患者の排便性状を最終確認してから検査を行うことがある。しかし、検査前に看護師等が患者さんの排便性状を確認し、検査可能な状態か判定する前処置では、看護師等の業務負担や排便性状判定の不一致が課題となっていた。加えて、患者自身が排便性状を確認する場合、自分で判定することに不安を感じたり、患者自身の排泄物を看護師に見られることに心理的負担を感じたりすることがあり、医療現場では「自分自身で排便性状を判定するのは不安だ」「看護師に声をかけづらい」「恥ずかしい」との声が寄せられてきた。
排便性状を判定するAIモデル構築・アプリ開発、単施設で有用性を検証
こうした課題を解決するため、研究グループは2020年から同院で診療目的に大腸内視鏡検査が実施される症例を対象として、前処置のための腸管洗浄液服用後から大腸内視鏡検査直前までに撮影され、匿名化された排便画像を収集し、排便画像評価に関する機械学習を行った。最終的に排便性状を判定するAIモデルを構築し、アプリへの実装およびアプリの検証を単施設で行った。その結果、患者が同アプリを使用して前処置を行っても、大腸内視鏡検査の質を落とすことなく実施可能であることが示唆された。
汎用性検証のための国内多施設共同試験を実施中
アプリは、看護師を意味する「nurse」と内視鏡を意味する「scope」に由来して、「ナースコープ」と名づけられた。初めてアプリを使用する場合を想定し、大腸内視鏡検査を受ける患者の心に寄り添った視認性の高いデザイン、初心者でも操作しやすい仕様を目指した。今後は、患者本人のスマートフォンにアプリをインストール(無料)し、大腸内視鏡検査前処置時の排便を撮影することで、その排便性状をAIが自動で判定することになる。患者や看護師は判定結果を瞬時に確認でき、判定結果を参考にして大腸内視鏡検査を実施することが可能となる。
「現在、アプリの汎用性を検証するために、日本国内で多施設共同の臨床試験を実施している。今後は国内の多くの施設でアプリを使用いただき、患者と医療従事者の負担軽減につなげていきたい」と、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース