消化管がんの死亡率が高い秋田県
秋田大学は5月7日、新型コロナ禍が発生して3年目までのデータを集計し、秋田県における新型コロナ禍の消化管がん診断に及ぼした影響を発表した。この研究は、同大消化器内科 飯島克則教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Tohoku Journal Experimental Medicine」にオンライン掲載されている。
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2020年から始まった新型コロナ禍の初期には、がん検診、内視鏡検査が全国一律に中断され、その結果、新型コロナ禍1年目(2020年)の全国集計でがんの診断件数が6万件減少し、未発見となったがんが、その後遅れて診断されてくることが懸念された。がんの発育速度から考えて、がん診断の遅れが顕著に現れてくるのに数年かかることが予想され、新型コロナ禍2年目、3年目の発見がんの動向が世界的に注目されている。特に秋田県は、食道がん・胃がん・大腸がんなどの消化管がんの死亡率がいずれも長い年、日本全国でワースト1~3位であることから、新型コロナ禍による検査中断の影響が最も顕著に出る地域と考えられ、秋田県での成績は日本全体の動向を占う上で重要だ。
研究グループはこれまで、秋田県で診断されるがんの80~90%をカバーする秋田県院内がん登録のデータを用いて、秋田県における新型コロナ禍の消化器がん診断に及ぼす1年目、2年目の影響を報告してきた。今回は最終報告として、秋田県で新型コロナ禍が消化器がん診断に及ぼした影響を次のように報告した。
新型コロナ禍の前後の大腸がん総数は大差なし、診断の遅れも確認されず
秋田県では新型コロナ禍1年目に消化器がん検診(胃バリウム検査、便潜血検査)の件数が30%減少、消化器内視鏡検査が15%減少し、これは全国の傾向と同様だった。大腸がんは、新型コロナ禍1年目で早期がんを中心に件数が減少したが、2年目には早期がんが増加し、総数も回復した。
新型コロナ禍の前(2017~2019年)と後(2020~2022年)の3年間ずつの診断された大腸がん総数の比較では、前が4,822件、後が4,907件で、新型コロナ禍後の診断件数が前のレベルに追いついたと考えられる。かつ、発見される大腸がんのステージの割合は新型コロナ禍前後で変化がなく(2017~2019年: stage I(48.4%), stage II-III(33.7%), stage IV(15.0%)、2020年: 46.8%, 35.7%, 14.9%、2021年: 49.5%, 33.7%. 14.3%、2022年: 47.9%, 36.4%, 13.1%)、新型コロナ禍による診断の遅れは確認されなかった。
食道・胃がんでも同様の結果に
食道・胃がんは、もともとの減少傾向のため(特にヘリコバクター・ピロリ菌感染減少のための胃がんの減少)、新型コロナ禍後3年間の診断件数は減少したままだが(前4,605件、後4,152件)、発見されるがんのステージの割合はコロナ禍前後で変化は認めず(2017-2019年: stage I(58.7%), stage II-III(20.7%), stage IV(17.2%)、2020年: 57.2%, 17.0%, 20.8%、2021年: 55.4%, 21.4%. 18.6%、2022年: 58.1%, 18.3%, 20.4%)、新型コロナ禍による診断の遅れは確認されなかった。
秋田県では、消化器がん診断の遅れが食い止められた可能性
新型コロナ禍による消化器がん診断の遅れが全国的に懸念されてきたが、その影響が最も顕著に出ると予想された秋田県において、そのような傾向は確認されなかった。
諸外国では、新型コロナ禍によるがん診断の遅れが現実のものとなっている地域がある。世界的にみて、日本では新型コロナ禍の初期段階での感染拡大状況が比較的軽かったこと、また、それによって内視鏡検査を含む検査体制が早期に復旧したことによって、少なくとも秋田県では消化器がん診断の遅れが食い止められ、日本全体でも同様の可能性が高いと考えられる。「今回の結果は、今後の感染症流行下でのがん診療体制維持のために重要なデータとなると考えられる」と、研究グループは述べている。
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・秋田大学 プレスリリース