生殖細胞のDNAメチル化に関与するDNMT3AとDNMT3L、詳細機序には不明点多い
九州大学は4月24日、代表的なエピゲノム修飾の一つであるDNAメチル化について、マウス卵子、および精子のDNAに正確にメチル基を付加するタンパク質の機能的役割を明らかにしたと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所の久保直樹特任講師(研究当時、現大阪大学微生物病研究所遺伝子機能解析分野)、高等研究院の佐々木裕之特別主幹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
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精子と卵子が伝達する父と母の遺伝子が受精後に正確に機能することで、受精卵から分化し、最終的に生物個体の一つひとつの細胞が形づくられる。そうした受精後の遺伝子の働きを制御する重要な因子の一つとしてDNAメチル化修飾が挙げられるが、このDNA修飾は精子、卵子の段階ですでに、そのDNAの各領域に的確に付加されている。そのDNAメチル化修飾の確立機序の解明のため、世界中の研究者がこれまで知見を積み上げてきた。
研究グループは過去に、生殖細胞のDNAメチル化が、1)受精後の胚の成長に必須であり、2)DNAメチル化酵素のDNMT3Aとその補因子のDNMT3Lにより導入されること、3)卵子においてヒストンH3タンパク質のH3K4メチル化の有無をDNMT3AのADDドメインという部位が認識し、DNAのメチル化が正常に行われること、を発見し報告した。しかし、もう一方のDNMT3Lが持つADDドメインとの関連や、さらには卵子に加えて精子ではどのようにADDドメインがDNAメチル化修飾の確立に寄与するのか、その仕組みは依然不明だった。
DNMT3A・3Lに共通のADDドメインに着目、機能欠損マウスの精子と卵子を解析
研究グループは、DNAメチル化修飾を担うDNMT3AとDNMT3Lの2つのタンパク質が共通して持つADDドメインに着目し、そのタンパク質部位の機能的役割を実際に生物(マウス)で解析するため、ゲノム編集によりそれぞれのADDドメインに変異を導入し、両方のADDドメインの機能が欠損したマウスとその精子と卵子の詳細な解析を行った。
DNMT3A・3L両方のADDドメイン機能欠損で、精子も卵子もDNAメチル化修飾喪失
その結果、このDNMT3AおよびDNMT3LのADDドメインの機能が喪失した雄マウスでは、精巣が縮小しており、精子の数、運動能も有意に低下していた。一方で、雌マウスの卵巣、卵子のサイズ、形態はほとんど野生型と変化は見られなかった。ところが、DNAメチル化修飾を全ゲノムで解析したところ、この両方のタンパク質のADDドメイン機能が欠損した精子、卵子いずれも、DNAメチル化修飾が正しくゲノムに付加されておらず、特に形態上は変化がなかった卵子で、より重度なDNAメチル化修飾の喪失が観察された。これは、DNMT3AとDNMT3L、それぞれ片方のADDドメイン機能欠損の影響より遥かに重度なものだった。そして、こうした変異型卵子を野生型の正常な精子と受精させ、その後の発生を観察したが、DNAメチル化修飾の喪失の影響で、マウス胎仔への正常な発生も強く障害されていた。以上により、2つのDNAメチル化酵素DNMT3AとDNMT3Lの協調的な機能的役割が解明され、卵子と精子の遺伝子が受精後どのように働くかを決める仕組みの一端が明らかになった。
発生・生殖研究や、生殖医療など広い分野での貢献期待
今回着目したDNMT3AとDNMT3Lは、DNAメチル化修飾を担う主要なタンパク質であり、哺乳類の発生、疾患などのあらゆる遺伝子制御に関与している。そうしたタンパク質の機能に迫ったこの研究は、基礎研究から疾患研究まで広範な貢献が期待される。「特に今回は生物モデルとして実際のマウスの精子と卵子の詳細な解析を行なったことから、今後の発生・生殖の研究や、生殖医療など広い分野での貢献が期待される」と、研究グループは述べている。
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・九州大学 研究成果