医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > EYS関連網膜色素変性に視細胞変性への光暴露が関与、ヒトiPS細胞で解明-理研ほか

EYS関連網膜色素変性に視細胞変性への光暴露が関与、ヒトiPS細胞で解明-理研ほか

読了時間:約 3分22秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年05月02日 AM09:10

IRDで高頻度の原因遺伝子EYS、ネズミに無いため哺乳類の研究モデルが無かった

(理研)は4月23日、患者由来の人工多能性幹細胞()から3次元網膜オルガノイドを作製およびゼブラフィッシュeys変異を作製して解析することにより、光刺激による視細胞の細胞死がEYS関連網膜変性疾患の病態に重要な役割を果たしていることを発見したと発表した。この研究は、理研バイオリソース研究センター iPS創薬基盤開発チームの大塚悠生研修生(京都大学大学院 医学研究科 眼科学講座 大学院生(いずれも研究当時))、今村恵子客員研究員(京都大学iPS細胞研究所 特定拠点講師)、井上治久チームリーダー(京都大学iPS細胞研究所教授)、 医学部 iPS・幹細胞応用医学講座の六車恵子教授、京都大学大学院 医学研究科 眼科学講座の辻川明孝教授、 発生遺伝学研究室の川上浩一教授、 医学部 ゲノム応用医学の三谷幸之介教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「JCI Insight」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

網膜は複数種の神経細胞によって構成されている。眼に入ってきた光刺激は視細胞によって受容され、電気信号に変換される。遺伝性網膜変性疾患(Inherited retinal dystrophies:IRD)は、視細胞が障害され徐々に脱落してしまう進行性の疾患群であり、不可逆的な視力低下を引き起こす。IRDの原因として280以上の遺伝子が報告されているが、Eyes shut homolog(EYS)は、日本を含むさまざまな国で最も頻度の高い原因遺伝子だ。しかし、マウスにおいてはEYS遺伝子が欠損しているなどの理由から哺乳類モデルが存在せず、EYS遺伝子変異によるIRDの病態は十分に解明されていなかった。

これまでEYSの研究にはゼブラフィッシュが一般的に使用されてきたが、ヒトと遠縁な種であり、ヒト由来のサンプルを用いた研究が望ましいと考えられていた。一方、近年ヒトiPS細胞から作製した3次元網膜オルガノイドを利用して、いくつかのIRD原因遺伝子の分子病態が調べられており、網膜オルガノイドのヒト由来の疾患モデルとしての有用性が報告されている。

患者iPS細胞由来の視細胞、結合線毛や外節領域のEYS局在量低下・細胞質内に異常局在

研究グループは今回、健常者とEYS関連網膜変性疾患の患者から作製したiPS細胞を使用し、180日間分化誘導させることで生体に近い構造を持つ3次元網膜オルガノイドを作製した。どちらのiPS細胞から作製したオルガノイドも表層部分に視細胞層が形成され、視細胞の内部には内節、結合線毛、外節の微細構造が形成された。その形成過程において、健常者由来オルガノイドと患者由来オルガノイドに構造上の差異は認められなかった。

健常者由来オルガノイド、患者由来オルガノイドにおいてEYSタンパク質の発現量に差は認められなかったが、EYSの細胞内の局在が異なっていた。つまり、健常者視細胞ではEYSは結合線毛や外節領域に有意に局在していたのに対し、患者視細胞ではこれらの領域の局在量が低下し、細胞質内に局在異常を来していることが判明した。

EYSとGRK7は複合体を形成、患者由来オルガノイドでGRK7の外節への輸送量低下

結合線毛は外節で働くタンパク質の輸送に重要な構造であるため、EYSは特定のタンパク質の内節から外節への輸送に関与していると予想した。そこで、EYSと同様に夜行性哺乳類で喪失を認めるG-protein-coupled receptor kinase(GRK7)という分子に注目し、評価を行った。

GRK7は視細胞外節で光シグナル伝達を遮断することで、順応や光障害からの保護に関与している分子だ。免疫沈降法によりEYSとGRK7は複合体を形成すること、そして、患者由来オルガノイドにおいてGRK7の外節への輸送量が低下していることを見出した。

EYS関連網膜変性疾患の病態に「光誘導性の細胞傷害」が重要な可能性

研究グループは、GRK7は視細胞外節において光保護に関与しているため、GRK7の外節への輸送量の低下は光障害を引き起こす可能性があると考えた。そこで、網膜オルガノイドに白色のLED光源で光暴露を行った。その結果、患者由来オルガノイドでは活性酸素が産生され、視細胞の細胞死が誘導された。GRK7の局在異常や光暴露後の視細胞の細胞死はeysノックアウトゼブラフィッシュでも同様に確認された。

さらに、より波長域を限局した光源(青、緑、赤色光)を健常者由来と患者由来のオルガノイドに照射して細胞死の程度を評価すると、同じ照度下では青色光が患者由来オルガノイドで最も光誘導性の視細胞死を引き起こしやすいことが明らかになった。

これらの結果から、患者由来iPS細胞から作製したEYS変異モデルにおいて、光誘導性の細胞傷害が、EYS関連網膜変性疾患の病態に重要である可能性が示された。

EYS関連網膜変性疾患の新規治療法開発に期待

今回の研究成果により、EYS関連網膜変性疾患患者のiPS細胞から網膜オルガノイドを作製することで、光刺激による視細胞死がEYS関連網膜変性疾患の病態に関与していることが示された。

「本研究で得られた知見をもとに、今後、EYS関連網膜変性疾患において、特定の波長光への暴露を減じるなど、新たな治療法の開発に役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大