難治てんかんの治療、新たな標的を発見か
難治てんかん患者に対し、海馬のfasciola cinereumと呼ばれる部位をほぼ全て摘出することで、てんかん発作が83%減少したとする研究結果を、米スタンフォード大学医学部脳神経外科・神経科学教授のIvan Soltesz氏らが、「Nature Medicine」に4月17日発表した。
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この結果は、1カ月に1〜2回てんかん発作を起こしていた患者の発作回数が3カ月に1回程度に減ったことを意味する。研究グループは、「われわれの結果は、難治てんかん患者に対しては、一般的な脳の標的部位とともにfasciola cinereumも治療ターゲットにする必要性があることを示唆するものだ」との見方を示している。Soltesz氏は、「海馬は、脳の中では非常によく研究されている部位ではあるが、fasciola cinereumについて知られていることは驚くほど少ない」と話す。
薬が効かない難治てんかんに対しては、一般的に手術が行われる。内側側頭葉てんかんと呼ばれる一般的なタイプのてんかんでは、感情の処理に関与する扁桃体と、記憶の形成に必要な部位である海馬から発作が生じる。海馬は脳の各半球の耳の高さあたりの深部に位置し、その名が示す通り、タツノオトシゴに似た形状をしている。脳の構造は左右対称であるため扁桃体と海馬は左右両方にあるが、発作は片側の脳から起こることが多い。そのため、難治てんかんでは、脳に深部電極を埋め込んで脳波を計測する手術である定位的頭蓋内脳波(sEEG)により発作の原因部位を特定し、その部位を手術で摘出するか、レーザーで焼き切る(レーザーアブレーション)治療を行う。前述のように、扁桃体と海馬は脳の両側にあるため、片側の手術後も記憶を形成する能力は保たれ、通常、副作用が生じることもほとんどないと研究グループは説明する。
しかし、このような治療を施しても3分の1の確率で治療が奏効しない。その理由を解明するため、研究グループはまず、マウスを用いてsEEGによる脳の発作活動の詳細なマッピングを行った。その結果、海馬の先端(タツノオトシゴの尻尾に当たる部分)にあるfasciola cinereumでのニューロンの活動が、てんかん発作時に高まることが示された。そこで、発作が生じているときに光遺伝学の技術を使用してfasciola cinereumでのニューロンの活動を停止させると、発作の持続時間が短くなることが確認された。この結果について、論文の筆頭著者であるスタンフォード大学脳神経外科分野のRyan Jamiolkowski氏は、「この部位の発作を引き起こす活動が、治療がうまくいかない原因なのかもしれない」と話す。
次に研究グループは、6人のヒトてんかん患者に電極を埋め込み、脳内の発作活動のマッピングを行った。その結果、fasciola cinereumは、海馬の他の部分の活動が比較的低いときでも、全ての患者において発作に関与していることが明らかになった。対象患者の1人は、すでに左脳の扁桃体と海馬のレーザーアブレーションを受けていたが、それでも発作は続いていた。sEEGの結果、海馬の唯一残った部分であったfasciola cinereumが発作に関与していることが示された。そこで、レーザーアブレーションでこの部分を焼き切ったところ、発作が83%減少したという。
研究グループによると、海馬の形は湾曲しているが、レーザーアブレーションで使われる光ファイバーは形状が真っすぐであるため、fasciola cinereumが発作に関与している患者では、2回に分けて手術を受ける必要があるかもしれないという。Jamiolkowski氏は、構造全体を焼き切るには、「異なる経路によるアプローチが必要であり、1回の処置で終わらせることは現時点では不可能だ」と説明している。
また、両側の扁桃体と海馬から発作が生じる患者に対しても、fasciola cinereumを標的にできる可能性があるという。記憶を形成する能力を維持するために、このような患者に対しては、海馬に電気ショックを与える装置を埋め込み、発作が生じる前に抑え込む手法が考えられるのだという。Jamiolkowski氏は、「患者にfasciola cinereumが関与する発作があるのかどうかを調べることで、レーザーアブレーションや神経刺激療法でこの部位を標的にすることが可能になるため、治療も画一的なアプローチよりも優れたものとなり得る」と話している。
▼外部リンク
・The fasciola cinereum of the hippocampal tail as an interventional target in epilepsy
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