出生児全体における先天性難聴の割合や原因別頻度の国内調査はほとんどない
信州大学は4月19日、長野県で2009〜2019年に出生した15万6,038児のうち、新生児聴覚スクリーニング(生後数日でのきこえのスクリーニング検査)を受けた15万3,913児を対象に大規模疫学調査を行い、先天性難聴(生まれつきの難聴)の頻度や原因を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部耳鼻咽喉科頭頸部外科学教室の宇佐美真一特任教授、工穣教授、吉村豪兼講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Epidemiology」に掲載されている。
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先天性難聴は日本で新生児聴覚スクリーニングが導入された2000年初頭以降、早期発見が可能となってきただけでなく、遺伝子解析技術の進歩に伴い、診断率も大幅に向上してきている。しかし、出生児全体における先天性難聴の割合、また新生児聴覚スクリーニングで要精査となった児が実際に難聴と診断される割合、さらには難聴の原因別の頻度などの調査報告は国外でもわずかであり、国内においては皆無だった。
研究グループは2019年まで長野県における先天性難聴児はほぼ全例が同大医学部附属病院で診断されており、また日本で遺伝子解析の先駆け的な存在であったことに着目し、出生児における大規模疫学調査が実施可能な希少な施設と考え、2009〜2019年までの10年間のデータをまとめた。
長野県出生児15万人以上の調査実施、先天性難聴は出生1,000人あたり1.62人
2009〜2019年までに長野県で出生した15万6,038児のうち、新生児聴覚スクリーニングを受けた15万3,913児を対象としたところ、新生児聴覚スクリーニングで要精査となった児が661人(0.43%)であったことが判明した。また要精査になった児に対して、二次スクリーニング、さらに同大医学部附属病院にて精密聴力検査を実施した結果、最終的に130例が両側性難聴、119例が一側性難聴となり、合計249例が難聴と診断された。すなわち、先天性難聴は出生1,000人あたり1.62人であり、また両側性難聴が0.84人、一側性難聴が0.77人であることがわかった。
両側性難聴の原因は遺伝性、一側性難聴は蝸牛神経形成不全が多いと判明
また研究グループで原因検索としてCTなどの画像検査、遺伝子解析、ならびに先天性サイトメガロウイルス感染症の検査などを実施した結果、両側性難聴では遺伝性、一側性難聴では蝸牛神経形成不全が最も頻度が高く、難聴の程度が重い高度難聴に限るとそれぞれ半数以上を占めることが明らかとなった。また先天性難聴の原因として注目されている先天性サイトメガロウイルス感染症による難聴は両側性、一側性問わず約4〜5%であることもわかった。
世界的にも有用な報告、早期の適切な検査や介入につながることを期待
これまでの諸外国の報告と比較しても非常に大規模な疫学調査であり、また遺伝学的検査や先天性サイトメガロウイルス感染症を含めた包括的な検査による診断を行った報告は国内外を問わず存在しないことより、日本に限らず世界的にも有用な報告になると考えられる。
研究成果は新生児聴覚スクリーニング検査にて要精査、もしくはその後に難聴と診断された患者家族への重要な情報提供となると期待される。「今後、この研究成果を元に、より早期に適切な検査や介入が行われるように小児難聴医療の向上に努めるだけでなく、新規難聴医療の開発を進めていこうと考えている」と、研究グループは述べている。
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