NRF2異常活性は治療抵抗性、2つの遺伝子変異が関与
東北大学は4月19日、食道扁平上皮がんで、生体防御因子である遺伝子NRF2が高頻度に変異し、がん細胞の増殖を活性化する仕組みを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の高橋洵大学院生、同大東北メディカル・メガバンク機構の鈴木隆史准教授、山本雅之教授、大学院医学系研究科の亀井尚教授、筑波大学医学医療系の高橋智教授ら研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」のオンライン版に掲載されている。
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転写因子NRF2は細胞を毒物や酸化ストレスから守る役割を果たしている。一方、NRF2が異常に活性化しているがん細胞は、抗がん剤や放射線治療に抵抗性を持つため、予後が悪いがんになる。NRF2を異常に活性化する遺伝子変異には、主に2つのタイプがある。一つはNRF2を抑制するタンパク質であるKEAP1の遺伝子変異であり、もう一つは、NRF2タンパク質自体の性質を変化させるNRF2遺伝子変異だ。これらの遺伝子変異は、いずれもNRF2の異常な活性化を引き起こすが、がん細胞の種類によって異なる頻度で発生する。扁平上皮がんではKEAP1遺伝子変異よりもNRF2遺伝子の変異の頻度が高いことが報告されている。
食道扁平上皮がんで高頻度はNRF2変異、その機序は不明
特に食道扁平上皮がんでは、NRF2を活性化する変異が高頻度に生じるため、食道がん治療の成績向上のために、NRF2が活性化した食道扁平上皮がんに対する有効な治療法の開発が期待されている。食道扁平上皮がんでは、KEAP1変異は少なく、そのほとんどがNRF2変異であることが知られていたが、そのメカニズムは長く解明されていない。また以前に、山本教授らの研究グループは、KEAP1変異によってNRF2活性化が誘導された食道扁平上皮細胞は、周囲の細胞との競合に負けるため、時間と共に消失してしまい、がん化しないことを報告している。
NRF2変異は、KEAP1変異に比べ、食道扁平上皮細胞の生存に有利な変異
研究グループは、ヒトの食道扁平上皮がんでは、KEAP1遺伝子変異よりもNRF2遺伝子変異の頻度が高いことに注目。KEAP1変異マウスと新たにNRF2の遺伝子変異を導入したマウスを作製して、NRF2変異体マウスとKEAP1変異体マウスの食道組織を比較した。その結果、どちらのモデルマウスでも同等にNRF2の活性化を誘導されているにも関わらず、KEAP1遺伝子変異を持つ扁平上皮細胞は周囲の細胞との競合に負けて消失してしまうのに対し、NRF2遺伝子変異を持つ扁平上皮細胞は長く生存が可能であることを発見した。
NRF2とTrp53変異の同時発生で、食道扁平上皮がんに類似した異型細胞が発生
さらに、NRF2遺伝子変異とがん抑制遺伝子であるTrp53遺伝子変異をマウスの扁平上皮細胞に同時に発生させると、食道扁平上皮がんに類似した形態を持つ異型細胞が発生することがわかった。一方、この変化はKEAP1遺伝子変異とTrp53遺伝子変異を同時に発生させた場合では確認されなかった。これらの結果から、KEAP1遺伝子変異とNRF2遺伝子変異はNRF2を活性化する点では似た性質を持っているが、扁平上皮細胞ではNRF2遺伝子変異が発生すると、特にがん化に寄与しやすいことが示された。すなわち、これがヒト食道扁平上皮がんでNRF2遺伝子変異が多い理由と考えられた。
「研究で新たに作出されたNRF2変異体マウスを利用して、NRF2活性化食道扁平上皮がんの研究を進めていくことで、NRF2の活性化に伴うがん悪性化の分子メカニズムが明らかになり、食道扁平上皮がんに対する新しい治療法の開発が加速することが期待される」と、研究グループは述べている。
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