調査は、AIを利活用した創作の特許法上の保護のあり方を検討する上での基礎資料を作成することを目的に、AI関連技術を活用している企業、研究機関などにアンケートを行ったもの。創薬プロセスの上流となるリード化合物探索でAIを活用していると回答したバイオ企業にAIの利活用による化合物の開発期間短縮効果を聞いたところ、「もともと1~2年要していたのが1年に短縮される程度であり、全体的な開発期間に影響するほどではない」と限定的とした。
AIが創薬のブレイクスルーになる可能性については「人間が多大な時間をかけて吟味した化合物であっても、最終的に医薬品として承認されることは困難。そのため、化合物の幅広な抽出が主な用途であるAIの精度が向上したとしても、あまり大きなブレイクスルーにはつながらないと考える」との見方を示した。
その上で「むしろ人手をメインとしている各開発プロセスについて、成功確率を高めるようなAIが現状ない状況」と課題を指摘。創薬でAIが担う部分、人間が担う部分のバランスについても「現状、AIの精度が期待しているほどではなく、あくまでもツールとして候補化合物を予測するのみであり、人間の貢献の方が大きい」と話すなど、AIの技術水準に不満を感じていた。
AIが予測しただけの特許が増加すると、製薬企業にとって不利益が大きくなる問題点も指摘。「製薬企業にとって医薬品の物質特許は非常に重要であり、開発費の回収に大きく関わることになる。AIを使用したことにより、進歩性の基準が上がり権利化できない可能性が高まることは、製薬企業にとってのデメリットが大きい」とリスクを訴えた。
AIを利活用した発明に対する特許が認められれば、AIが疾患メカニズムや医薬品の作用機序といったロジックを解明した結果として、有用な医薬品を発見することができた場合に、そのロジックさえ明確に示したならば、実験を行わずに作成した特許出願でも記載要件を認めるケースもあり得る。こうした事例について、「あまりにも広い範囲の特許がインフォマティック予測のデータのみで成立するのは好ましくない」とした。
AIの学習データ等について特許法で保護対象とすることも「学習データとしては臨床試験データや既存の化合物のデータが想定されるが、何らかの形で独占権を持てたとしても大きなメリットがあるとは考えにくい」「製薬企業はデータを使う側であり、データに関する規制が厳密なものになるほど不便を被るため、こうした新たな形の保護はあまり好ましくない」と厳しい見方を示した。
一方、「AIの開発者は発明者としての権利を認められる余地があると考えるか」との問いには、「基本的にはないと考える。AI開発者が開発したのはあくまでAIであり、化合物ではない」と答えた。