肝線維症のドライバーとなる活性化肝星細胞、不活化する治療薬は未開発
東京大学は4月19日、ヒトiPS細胞から静止期および活性化肝星細胞への誘導に成功し、活性化肝星細胞を脱活性化し正常な静止期状態に戻す薬剤のスクリーニング系の開発に成功したと発表した。この研究は、同大定量生命科学研究所の中野泰博特任研究員(研究当時)、木戸丈友特任講師、伊藤暢特任准教授(研究当時)、宮島篤特任教授、国立国際医療研究センターの田中稔研究室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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肝炎ウイルス感染、アルコール過剰摂取、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)や薬物摂取などさまざまな原因による慢性的な肝障害は、しばしば肝線維症を経て肝硬変や肝がんを引き起こす。肝硬変患者は全国で40~50万人と推定されているが、肝硬変そのものに対する有効な治療薬はない。肝臓の構成細胞の一つである肝星細胞は、肝細胞の障害に応答して活性化して、コラーゲンなどの細胞外マトリクスを産生する肝線維症・肝硬変のドライバーとなる。従って、肝線維症治療薬としては、活性化肝星細胞を不活化して正常に近い状態である脱活性化肝星細胞へと誘導する薬剤が望まれるが、均一なヒト活性化肝星細胞を安定的に得られないことや、脱活性化状態をモニターする手法がないことが、その開発の妨げとなっていた。
活性化肝星細胞の調整・脱活性化誘導剤スクリーニング系を確立、有力な化合物を同定
この課題に対して、研究グループはヒトiPS細胞から調製した静止期肝星細胞を培養系で増幅し、活性化肝星細胞を大量に調製する技術を確立した。また、活性化肝星細胞を脱活性化状態へと誘導する化合物群の組み合わせを見出した。これらの化合物群をコントロールとして、384ウェルプレートを用いて、脱活性化誘導剤のハイスループットスクリーニング系(CV=6.21%、Z’-factor=0.81)を開発した。さらに、約4,000種の既知薬理活性物質/既存薬ライブラリーから、単独で脱活性化を誘導する化合物を複数同定することに成功した。その中のひとつであるGZD824(Olverembatinib)が、活性化肝星細胞の線維化マーカーを強力に抑制するとともに、肝再生因子の発現を誘導することを明らかにした。
肝臓以外の臓器に起こる線維化の治療にも応用できる可能性
脱活性化肝星細胞は、細胞外マトリクスの産生を停止し、PleiotrophinやMidkineなどの肝細胞の環境因子を発現する。そのため、脱活性化誘導剤のハイスループットスクリーニング系から同定した化合物は、線維化改善のみならず肝組織の正常化を促進することが期待される。「線維化は肝臓のみならず、さまざまな臓器に起こるが、その中心となる細胞は活性化肝星細胞と類似した筋線維芽細胞である。従って、肝線維症の線維化抑制/改善薬は、肺線維症、腎線維症、膵線維症、全身性強皮症などの臓器線維症治療薬として適応拡大が期待される」と、研究グループは述べている。
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