遺伝性不整脈は若年者の心臓突然死の主要原因、根本治療法がなく動物モデルが望まれる
筑波大学は4月18日、遺伝性不整脈の病態解明を目的として、ランダムに遺伝子変異を導入した大規模マウスライブラリの心電図スクリーニングを行った結果、自然発生的に致死的不整脈を呈する遺伝性不整脈モデルマウスの血統を樹立することに成功したと発表した。この研究は、同大国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の柳沢正史教授、同大医学医療系の村越伸行准教授、同大大学院医学学位プログラムの岡部雄太氏(研究当時、現:茨城県立中央病院循環器内科医長)、順天堂大学医学部薬理学講座の呉林なごみ客員准教授、村山尚先任准教授、東京医科大学細胞生理学分野の井上華講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されている。
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心臓突然死は、世界の死因第1位である心血管死の約4分の1を占めている。心筋梗塞などの虚血性心疾患が心臓突然死の多くを占めるが、若年者では遺伝性不整脈が心臓突然死の主要な原因で、社会的損失が大きく問題となっている。
遺伝性不整脈は、心臓の電気的活動をつかさどっているイオンチャネルやその関連分子の遺伝子異常によって起こる病気。致死的不整脈の原因となり、心臓突然死を起こす。昨今の研究技術の進歩により、原因分子やメカニズムの特定が進んでいるが、原因が特定されない不整脈も依然として多く残されている。また、治療法は植込み型除細動器や抗不整脈薬など対症療法的なものしかなく、根本治療法がないことが問題だ。このため、より詳細なメカニズムの特定や、それに貢献する適切な動物モデルの存在が強く望まれている。
自然発生的に致死的不整脈を呈する遺伝性不整脈モデルマウスの血統樹立
今回の研究では、遺伝子変異原を注射することで遺伝子上にランダムに点突然変異を導入したマウスを作製。同マウスを繁殖させることで、ランダムに遺伝子変異を有するマウスで構成される大規模ライブラリを用意した。そのライブラリに対して心電図スクリーニングを実施し、自然発生的に致死的不整脈を呈するマウスを同定。その不整脈が遺伝する遺伝性不整脈モデルマウスの血統を樹立することに成功した。
不整脈の原因遺伝子、リアノジン受容体2新規ミスセンス変異を特定
また、遺伝学的解析を組み合わせることで、不整脈の原因となる遺伝子がリアノジン受容体2の新規ミスセンス変異c.12277A>G(p.I4093V)であることを特定。リアノジン受容体2は、心筋細胞の収縮に重要な細胞内カルシウムを制御しているイオンチャネルだ。その遺伝子変異がカテコラミン誘発性多形性心室頻拍という遺伝性不整脈の原因となることが知られており、今回の変異の報告は同研究が初めてとなる。
リアノジン受容体2からの強いカルシウムイオン漏れで致死的不整脈発生
同モデルマウスについて詳細な心電図や症状、細胞レベルでの解析を行った結果、加齢に伴い心肥大、心機能低下、不整脈の増加を来し、生後1年以内に心臓突然死するという重篤な症状を呈することがわかった。これは従来のモデルマウスに見られないものだ。その背景として、遺伝子変異を起こしたリアノジン受容体2は、極めて強いカルシウムイオンの漏れを生じるために、致死的不整脈が発生していることが明らかとなった。さらに、不整脈に対する既存薬の効果を検証する実験から、このモデルマウスを使うと、薬の不整脈抑制効果を簡便に検出できることがわかった。
リアノジン受容体2遺伝子変異有の遺伝性不整脈に対する治療法開発に期待
同研究により、心臓突然死につながる遺伝性不整脈の新たなメカニズムが明らかになった。遺伝性不整脈、特に、リアノジン受容体2に遺伝子変異を有する場合の新たな治療法開発にこの成果が貢献することが期待される。さらに、この遺伝性不整脈モデルマウスが有する、自然発生的に不整脈が生じるという特性を利用することで、新規薬の薬効評価を非常に簡便に行うことができると期待される、と研究グループは述べている。
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