KMT2A再構成AMLの予後予測、KRAS遺伝子変異との関連を示唆されるが詳細は不明
京都大学は4月18日、白血病の一種である急性骨髄性白血病(AML)の正確な予後予測につながる遺伝子異常を発見したと発表した。この研究は、同大医学研究科の松尾英将准教授、伊与田真寿修士課程学生、庄子皓太修士課程学生、小川誠司教授、錦織桃子教授、滝田順子教授、国立がん研究センターの吉田健一分野長、滋賀県立総合病院の足立壯一総長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Leukemia」にオンライン掲載されている。
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AMLは白血球になる前の未熟な細胞に異常が起こり、がん化した白血病細胞が骨髄で無制限に増える血液疾患である。現在、AMLの診断時に白血病細胞の遺伝子異常などを調べて予後を予測することで、患者のリスクに応じた治療が行われている。例えば、造血幹細胞移植は強力な治療だが、感染症や晩期合併症といったリスクも大きいため、全てのAML患者に行うことは好ましくなく、高リスクと考えられる群に限定して行われている。しかし現在のリスク分類は決して満足できるものではなく、低〜中間リスクに分類された患者でも再発・死亡例が相当数見られる。よって、患者の予後をより正確に予測できる新しい指標が必要とされている。研究グループは、AMLのうち特に乳児~小児で頻度が高い病型であるKMT2A再構成AMLを主な研究対象としており、これまでにKRAS遺伝子の変異が予後不良と関連する可能性を見出していたが、症例数が十分でなく、遺伝子変異が生じた部位(コドン)の影響については不明だった。
KMT2A再構成症例のうち、KRAS遺伝子コドン12の変異は他の変異より予後不良と判明
研究グループは、日本小児がん研究グループ(JCCG)による臨床試験、AML-99・AML-05・AML-12に登録されたKMT2A再構成AML症例の余剰検体を用いて、次世代シークエンサーを用いた網羅的な遺伝子解析を行った。さらに、海外(TARGET-AMLコホート)のAMLデータセットを統合して、計225例のKMT2A再構成AML症例について、KRAS遺伝子変異が見られるコドンによる生存率の違いを調べた。その結果、KRAS遺伝子のコドン12に変異を持つ症例は、コドン13や他のコドンに変異を持つ症例と比較して予後不良であることが明らかになった。
KMT2A再構成以外のAML、KRAS遺伝子コドン12変異による予後との関連は見られず
KRAS遺伝子のコドン12に変異を持つ症例が予後不良であるという結果は、日本のJCCGコホート、海外のTARGET-AMLコホートのいずれでも見られた。また、KRAS遺伝子のコドン12変異は、高リスク群、低〜中間リスク群のいずれでも予後不良に関与していた。さらに、KRAS遺伝子のコドン12変異は、現在リスク分類に用いられている他の遺伝子異常(FLT3-ITD、KMT2A-MLLT4など)とは独立して予後不良に関与していることが、多変量解析という手法で明らかになった。一方、KMT2A再構成以外のAML症例、計882例でも同様の解析を行ったが、KRAS遺伝子のコドン12変異の有無による予後の有意な違いは見られなかった。よってKRAS遺伝子のコドン12変異が予後不良に関わるのは、KMT2A再構成AMLの特徴であると考えられた。
KRAS遺伝子コドン12変異の予後への影響、他のがんでも重要である可能性
AMLの診断時に、KMT2A再構成を持つ症例についてはKRAS遺伝子のコドン12変異の有無を調べることで、より正確な予後予測が可能になり、リスクに応じた最適な治療につながる可能性が考えられる。予後予測につながる遺伝子変異は各種のがんで多数報告されているが、変異の生じた部位(コドン)の影響まで検討された研究は多くない。KRAS遺伝子変異はさまざまながんで見られるため、他のがんでもコドン12変異の予後への影響について検討することは重要と思われる。「今後は、KMT2A再構成AMLにおいてKRAS遺伝子変異の中でも特にコドン12変異が予後不良に関わるメカニズムについて、詳細を明らかにしていきたいと考えている」と、研究グループは述べている。
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