ELF-ELMEへの曝露は、うつ病患者の抑うつ症状を改善するのか?
名古屋大学は4月15日、うつ病患者に対して、地磁気よりも弱い超低周波変動する超微弱磁場環境(ELF-ELME)による治療が、抑うつ症状の改善につながることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科 精神医療寄附講座の稲田俊也特任教授、精神医学分野の立花昌子病院助教、神経遺伝情報学分野の伊藤美佳子講師、大野欽司教授(現 名古屋学芸大学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Asian Journal of Psychiatry」の電子版に掲載されている。
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うつ病は最も頻度が高い精神疾患で、甚大な社会的損失をもたらす。薬物療法が一般的だが、約30%の患者は寛解に至らない。ガイドラインでは、薬物療法に反応しない治療抵抗性うつ病患者に対し、修正型電気けいれん療法や反復経頭蓋磁気刺激が推奨されているが、せん妄・記憶障害や、頭痛・筋肉痛といった副作用や利便性の問題から、臨床での使用は限定されている。
うつ病の病態生理はいまだ解明されていないが、近年、さまざまな脳領域におけるミトコンドリア機能異常とうつ病との関連が報告され、ミトコンドリア機能の改善は、うつ病の潜在的な治療選択肢となりうることが示唆されている。また、神経遺伝情報学分野の大野教授らの研究グループは、超低周波微弱パルス磁場がマイトファジーを誘導した後、ミトコンドリアを新生し、活性化することを発見している。
研究グループは今回、非盲検試験で低周波変動する超低周波微弱パルス磁場環境(ELF-ELME)への曝露が、うつ病患者の抑うつ症状を改善するか否かを調べた。
4人のうつ病患者に頭部装着型 ELF-ELME装置を装着し、有効性をMADRSで評価
研究では、4人のうつ病(DSM-5)患者に、頭部装着型 ELF-ELME装置を1日2時間、8週間連続で装着し、ELF-ELME(10μT, 4 msec, 1-8 Hz/8 sec)の磁場環境に置いた。安全性と有効性は、基準時点、2、4、6、8週目に評価された。主要評価項目として、精神科医が、うつ病の重症度評価で使用される日本語版MADRSを用いて有効性評価を行い、また基準時点と8週後に副次的評価として人工知能(AI)-MADRSを用いた有効性評価を行った。
AI-MADRSは、MADRSの2~10項目の構造化面接をベースに機械学習に適した回答が得られるように質問文が改訂され、合成音声による面接質問に参加者が音声で回答するコンピューター面談で、評価者の主観を排除した評価が期待される。参加者の音声応答は、音声認識と自然言語処理モデルを用いて分析され、過去に蓄積されたMADRS面接データで訓練された機械学習法を用いて自動的に評価された。電池切れのため、着用時間が2日間短くなった1人の患者を除き、全ての患者がELF-ELME装置の1日2時間使用という所定のレジメンを遵守した。
全ての患者でMADRS総評点が低下
その結果、有害事象は報告されず、ELF-ELME療法の忍容性が示された。また、全ての患者でMADRS総評点の低下が認められた。基準時点から2週目、4週目、6週目、8週目のMADRS総評点の平均改善率は、それぞれ31%、45%、60%、68%だった。4人の患者におけるMADRS総評点は4週、6週、8週で基準時点と比較して有意に低下した。AI-MADRS評点の平均値は、基準時点の32.8点から8週後には12.5点に有意に低下した。
安全性・利便性が高く、うつ病治療に画期的な変化をもたらす可能性
ELF-ELMEが発生する磁場は日本の地磁気の4.5分の1、かつ国際非電離放射線防護委員会が安全性を定めた一般大衆暴露基準の60分の1以下と非侵襲的であり、患者は超微弱磁場環境に置かれていることを自覚することなく、就業や日常生活活動の妨げにもならずに連日の在宅治療が可能となり、労働生産機能の回復が見込まれる。
また、現在のうつ病治療(長期にわたる抗うつ薬の服用・電気けいれん療法・反復経頭蓋磁気刺激療法)と比較して、想定される副作用がほとんどなく、利便性にも優れ、医療費負担の軽減が期待される。
「対照群を置いた臨床試験において有用性が確認されれば、現在のうつ病治療の臨床現場に、革命的で画期的な変化をもたらす可能性がある」と、研究グループは述べている。
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