小児睡眠の専門家は少なく、共働き家庭では面談指導が難しい課題
大阪大学は4月15日、双方向性睡眠啓発アプリ「ねんねナビ(R)」の指導システムにAI技術を追加で導入し、各家庭の状態に応じたスモールステップの睡眠習慣改善のアドバイスを自動的に送るとともに、育児を労うメッセージを継続的に送って養育者をエンパワメントし、子育てに伴走する支援システムを実現したと発表した。この研究は、同大大学院連合小児発達学研究科の毛利育子准教授、谷池雅子特任教授(常勤)ら、弘前大学大学院保健学研究科の斉藤まなぶ教授ら、弘前市の研究グループによるものだ。
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睡眠は、心身をリフレッシュさせ健康を維持するのに欠かせない生理機能だ。近年、乳幼児期の睡眠の問題が後年の発達に悪影響をもたらす可能性が危険視されている。また、日本の子どもの睡眠時間は世界一短いとされている。さらに小児睡眠の専門家が非常に少ないということ、また、共働き家庭が多い近年では面談による指導が難しいという課題がある。
双方向性睡眠啓発アプリ「ねんねナビ」開発、睡眠改善で「育児に自信」の声も
そこで研究グループでは、2014年からスマートフォンを用いた双方向性睡眠啓発アプリ「ねんねナビ(R)」を開発し、2017年から弘前市を含む国内4自治体にて社会実装を実施し、有用性を確認してきた。同アプリは、家庭の実情に合わせたスモールステップのアドバイスを複数送信し、その中から養育者が1つを選んで実行するという養育者ファーストのアプリとして開発。単に科学的に妥当なアドバイスを一方的に送信するのではなく、子育てに長期的に伴走するスタイルを採用しており、養育者のエンパワメントに特化した睡眠支援ツールとしては世界で最初のものだ。自治体での半年間の介入におけるドロップアウト率は0%と極めて少なく、睡眠リズムの改善や寝つきが良くなるなどの睡眠習慣上の改善が認められた。加えて、睡眠の改善を通して「育児に自信が持てるようになった」という声が多数あった。
家庭にあわせた助言を自動抽出するAIを新たに搭載、弘前市34家庭で検証
今回の研究では、より多くの家庭をサポートするため、AI開発の専門家として大阪大学産業科学研究所の駒谷和範教授の指導のもと、谷池特任教授のグループにより指導システムにAI技術を導入し、家庭に応じて調節された助言が自動的に抽出されるシステムを開発。そして、2022年9月より、以前からアプリの社会実装に協力してきた弘前大学斉藤まなぶ教授と共同で、指導にAI技術を導入したアプリの社会実装を弘前市にてスタートした。これまで、34家庭が研究に参加し、26家庭が使用期間を完了しており、明らかなドロップアウトは見られていない。
約8割の家庭「子どもの睡眠改善」と回答、専門家指導時と大きく変わらず
また、AI技術に基づく指導下でも約8割の家庭が「子どもの睡眠に改善がみられた」と回答し、約6割の家庭が「寝かしつけがしやすくなった」、約半数の家庭が「子育てがしやすくなった」と回答するなど、専門家による指導時と大きく変わらない有用性が報告されている。
育児中で忙しい養育者の睡眠改善、子育て支援にも期待
家庭への支援にAI技術を導入したアプリを活用することで、日本の幼児がぐっすり眠る習慣ができ、情緒が安定した落ち着きのある子どもが増えることが期待される。さらに、育児中で忙しい養育者自身に対しても、よく眠り、健やかに安心して子育てできるよう支援することが可能になる、と研究グループは述べている。
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