高頻度で続発緑内障を引き起こすHTLV-1ぶどう膜炎、適切な治療薬が求められる
東京医科歯科大学は4月11日、ROCK阻害薬がHTLV-1ぶどう膜炎の続発緑内障に有効であることを突き止めたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科眼科学分野の鴨居功樹講師、大野京子教授、楊明明大学院生、宗源大学院生、張晶大学院生、鄒雅如大学院生の研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences」オンライン版に掲載されている。
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HTLV-1(Human T-cell Lymphotropic (Leukemia) Virus type-1)は、世界保健機関(WHO)からTechnical Reportが発刊されるなど、全世界で取り組むべき重要な感染症と位置付けられている。HTLV-1感染者は世界で3000万人以上、日本で100万人前後存在するとされている。成人T細胞白血病、HTLV-1関連脊髄症、HTLV-1ぶどう膜炎などを引き起こす。
近年、研究グループは眼科学的見地から、HTLV-1関連疾患は母子感染だけでなく、水平感染でも発症すること、バセドウ病患者ではプロウイルスロード(感染細胞率)が低値であっても発症することを発見し、HTLV-1感染症に新たなパラダイムをもたらした。これらの発見経緯より現在、HTLV-1が引き起こす眼の炎症であるHTLV-1ぶどう膜炎が注目されている。HTLV-1ぶどう膜炎は高頻度で続発緑内障を引き起こし、不可逆的な視覚障害をきたすため、適切な治療薬が求められている。
緑内障治療薬のROCK阻害剤は有効か?in vitroで検討
研究グループは、これまでに、HTLV-1ぶどう膜炎の続発緑内障の発症機序として、病態に関わる線維柱帯細胞が、眼内(前房)に浸潤したHTLV-1細胞に接触することでHTLV-1に感染し、線維柱帯細胞の形態変化、サイトカインによる局所炎症、ケモカインによる浸潤細胞の誘導によって、房水流出障害が生じることを示している。一方で、これまでHTLV-1ぶどう膜炎の続発性緑内障に対する適切な薬剤は明らかではなかった。続発緑内障は、ぶどう膜炎など、他の眼疾患に続いて、眼圧が上昇する緑内障で、視野に欠損が生じる。そこで、今回の研究では、すでに緑内障治療薬として上市されているROCK阻害剤に着目し、治療薬として有効であるかin vitroで検討した。
ROCK阻害薬はプロウイルスロードに影響を与えず、F-actinとfibronectin減で形態改善に寄与
眼細胞である線維柱帯細胞とHTLV-1感染細胞を用いてHTLV-1ぶどう膜炎の続発緑内障の環境を模した実験系を構築し、ROCK阻害薬リバスジルの効果について検討した。その結果、ROCK阻害薬は、HTLV-1に感染した線維柱帯細胞において、プロウイルスロードに影響を与えない一方で、細胞骨格を形成するタンパク質F-actinと細胞を取り巻き存在し、生体組織を支持、細胞増殖・分化などに関与するfibronectinを減少させ、形態の改善に寄与することが示された。
炎症性サイトカイン・ケモカイン抑制、房水流出障害改善の可能性
また、HTLV-1感染によって誘発される局所炎症に対するROCK阻害薬の効果を解析した結果、ROCK阻害薬によって炎症性サイトカインやケモカインを抑制することが明らかになった。これらの結果から、ROCK阻害薬は、HTLV-1ぶどう膜炎の続発緑内障における房水流出障害を改善する効果があると考えられる。
今回の研究成果により、HTVL-1感染者においては早期から積極的に使用することが、視機能を守るために有益である可能性が示唆された、と研究グループは述べている。
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