CRA-J、回答負担/現場・行政施策での使用しづらさに課題
国立長寿医療研究センターは4月2日、簡易に実施可能な介護者状況を評価する質問票を開発したと発表した。この研究は、同大研究センター老年社会科学研究部の野口泰司研究員、斎藤民部長ら、東北大学、国立保健医療科学院の研究グループによるもの。研究成果は、「Geriatrics & Gerontology International」に掲載されている。
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要介護高齢者の増加に伴い、家族などに介助や生活支援を行う介護者は2021年には650万人にのぼり、家族介護者は在宅介護の大きな役割を担っている。しかし、介護は時には負担を生じ、介護者のメンタルヘルスやウェルビーイングを損ねる可能性があるため、介護者支援の推進は持続可能な日本の介護システムを維持するためにも重要な社会課題だ。家族介護者は、感情的、社会的、経済的、身体的、そして精神的と、さまざまな負担を経験する。一方で、介護はネガティブな影響だけでなく、自己肯定感や自尊心の向上などのポジティブな影響ももたらすことが知られている。これらの介護によるさまざまな影響を評価し、必要な場合は適切な支援に繋げることが求められる。しかし、これまで使用されてきた介護者の評価は、必ずしも介護による多様な影響を捉えることができず、特に、経済的負担や介護によるポジティブな影響については見逃されていた。
2009年に日本語版が開発されたCaregiver Reaction Assessment(以下、CRA-J)は、「日常生活への影響」「ケアに関する受け止め」「家族のサポート」「健康状態への影響」「経済的な影響」の5要素から構成され、介護による経済的負担やポジティブな影響も含めた多様な側面について介護者の状況を評価することできる。しかし、CRA-Jは全質問項目が18項目とやや多いため回答負担が大きく、実際の介護現場や行政施策において使用しにくい問題があった。
介護者934人のCRA-J回答情報を検証、介護状況5要素を抽出
そこで今回の研究では、CRA-Jの短縮版を作成し、簡易に実施可能で介護による多様な影響を把握可能な介護者評価の質問票を開発することを目的とした。同研究は、インターネット調査を通じて収集された、65歳以上の家族に介護を行っている介護者934人のデータを用いて行われた(平均年齢58.8歳[20~82歳]、女性割合50.2%)。対象者はCRA-Jの18項目版をはじめとした介護状況や心理状況についての質問に回答。得られたCRA-Jの回答情報を、確証的因子分析という複数の質問項目の回答が想定された通りに測定できているか検証する統計的手法を用いて分析した。その結果、安定して介護状況の5要素を捉えることが確認された。
5要素から2項目ずつ選択してCRA-J短縮版作成、評価は適切と確認
次に、短縮版の作成のためにCRA-Jの各5要素から代表する2項目をそれぞれ選択し、全10項目の短縮版(以下、CRA-J-10:10〜50点満点)を作成した。CRA-J-10は、点数が高いほど介護負担が重いことを示す。介護の頻度や時間が増加するに従い、CRA-J-10の点数が大きくなることが確認され、介護状況をよく反映することが示された。さらに、CRA-J-10は介護負担感や肯定感などの他の指標とも中程度以上の相関関係が確認され、この質問票による評価の適切さが示された。
抑うつハイリスク介護者の簡便な判定基準を提案
また、実際の現場で使いやすいように、CRA-J-10の合計点数による介護負担の重度分類を行った。介護負担なし(10〜20点)、軽度(21〜30点)、中程度(31〜40点)、重度(41〜50点)とした分類は、重度になるほど抑うつの有病率が増加することが確認され、簡便なハイリスク介護者の判定基準を提案した。特に、中程度以上では抑うつを持つ者が急激に上昇した。
今回の研究では、経済的負担や介護によるポジティブな影響も含む多面的な評価が可能な介護状況評価の質問票の短縮版を作成した。これにより、介護現場や行政施策における簡易な介護者の評価が可能となり、介護者支援の推進を通じた在宅介護環境の整備につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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・国立長寿医療研究センター プレスリリース