妊娠初期BPAばく露で出産時リスク高の可能性指摘も、情報は限られていた
国立環境研究所は4月5日、妊娠12週~16週までに採取された尿中のフェノール類濃度を分析し、そのばく露源を検討した結果を発表した。この研究は、同研究所エコチル調査コアセンターのスワンナリン・ニーラヌッチ特別研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Environment International」に掲載されている。
子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、エコチル調査)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしている。エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。
フェノール類は、食品や飲料の容器、子ども用の玩具といった多くのプラスチック製品、染料や洗剤、消毒剤、殺虫剤など多様な製品の原料として用いられている。最近の研究では、子どもや妊婦の尿や血液などから、ビスフェノール類が検出されたことが報告されていて、妊娠初期の(ビスフェノールA(BPA)ばく露により、早産や死産といった出産時のリスクが高まる可能性が指摘されている。しかし、フェノール類の妊婦のばく露量やばく露源についての情報は限られている。
4,577人対象、妊娠12~16週の9種尿中フェノール類濃度を分析・ばく露源を検討
そこで今回の研究では、妊婦のフェノール類ばく露を評価し、そのばく露源を予測した。エコチル調査の参加者のうち詳細調査にも参加する母親4,577人を対象に、妊娠12週~16週までに採取された尿中の9種類のフェノール類(BPA、BPF、BPS、BPAF、パラニトロフェノール(PNP)、PNMC、4-t-OP、4-NP、4-n-NP)の濃度を分析した。BPAばく露については推定一日摂取量を計算し、ドイツ連邦リスク評価研究所の設定した耐容一日摂取量と比較した。参加者が自ら回答する質問票から社会人口統計学的特性、生活環境および食事摂取量などのデータを収集し、フェノール類のばく露源を予測した。
60%以上の母尿からPNPとBPA検出、BPAばく露による健康被害の可能性は低い
研究の結果、調査した9種類のフェノール類のうち、PNP(68.2%)とBPA(71.5%)の2種類が60%以上の母親の尿から検出された。PNP濃度は国内外の先行研究で報告された濃度と同程度であり、BPA濃度は国内外の先行研究で報告された濃度よりも低い値だった。
BPAの平均推定一日摂取量は耐容一日摂取量の10分の1から100分の1程度となり、BPAのばく露が健康に害をおよぼした可能性は低いと考えられた。
フェノール類ばく露源特定のため、今後さらなる研究が必要
なお、質問票の回答を用いてフェノール類のばく露源を探索したが、今回の解析からはばく露源の特定はできなかった。使用した質問票には、先行研究で報告されたばく露に関連する要因が含まれておらず、ばく露源を特定するための情報を十分に含んでいない可能性がある。
今回の研究結果では母親の尿中フェノール類濃度は高くなかったが、フェノール類は体内に取り込まれてから尿中に排出されるまでの時間が短いため、この結果は短期間のばく露を反映している。長期的なばく露による母親およびその子どもへの影響を評価するには、ばく露源の特定のための、環境や食事のモニタリングなども含め、さらなる研究が必要だ、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立環境研究所 プレスリリース