診断がつかない腹痛症例に希少疾患が含まれる可能性
Alnylam Japan株式会社(以下、アルナイラム)は3月29日、原因不明の腹痛と急性肝性ポルフィリン症(AHP:Acute Hepatic Porphyria)の診断に関する後方視的研究の最終結果を発表した。この研究は、同社と日本病院総合診療医学会との共同研究(研究代表者:佐賀大学医学部附属病院総合診療部の多胡雅毅教授)によるもの。研究成果は、第28回日本病院総合診療医学会学術総会で発表された。
近年の検査技術の進歩に伴い、診断可能な腹痛は増加している。しかし、腹痛の原因疾患は多岐にわたり、診断がつかない腹痛症例も一定数あり、その中には、AHPを代表とする希少疾患が含まれている可能性がある。AHPに限らず、臨床現場では、複数の医療機関を受診しても診断がつかない腹痛に苦しむ患者は少なくなく、それにもかかわらず、いまだ原因不明の腹痛を定義する明確な基準は存在しない。
AHPは急性の腹痛発作が特徴、診断まで平均15年との報告も
AHPは、生命を脅かしうる激しい急性の腹痛発作が主にみられる遺伝性の希少疾患である。急性間欠性ポルフィリン症(AIP:acute intermittent porphyria)、遺伝性コプロポルフィリン症 (HCP:hereditary coproporphyria)、異型ポルフィリン症 (VP:variegate porphyria)、およびALA脱水酵素欠損性ポルフィリン症(ADP:ALA dehydratase deficiency porphyria)の4病型があり、いずれの病型も、遺伝子変異により肝臓内のヘム産生に必要な特定の酵素が欠損することで生じる。
主に思春期から閉経前の女性にみられ、その症状はさまざまだ。最もよくみられる症状は激しい腹痛であり、随伴症状として、四肢痛、背部痛、胸痛、悪心、嘔吐、錯乱、不安、痙攣、四肢脱力、便秘、下痢、暗色尿あるいは赤色尿等がみられることがある。AHPは発作中に麻痺や呼吸停止が起こる可能性もあることから、生命を脅かす危険もある。また、患者によっては日常生活の機能や生活の質に悪影響を及ぼす。
AHP はその症状が非特異的であるため、婦人科疾患、ウイルス性胃腸炎、過敏性腸症候群(IBS)、虫垂炎などの他の疾患と診断されることもあり、世界的には、症状が現れてから診断がつくまでに平均15年に及ぶことが報告されている。また、AHPの長期合併症には、高血圧、慢性腎不全、肝細胞癌を含む慢性の肝疾患がある。
AHP所見があった診断不明の腹痛患者、約6割で尿検査実施もAHP検査項目の測定なし
今回研究グループは、2019年4月からの3年間に、6つの医療機関の総合診療部門を受診し、腹痛の訴えがあり、腹部CT検査、上部・下部消化管内視鏡検査、腹部超音波検査のいずれかを実施した患者についてカルテレビューを実施し、診断不明の腹痛と、腹痛の原因が特定できた患者とのデータを比較した。
収集された症例1,915例のうち、腹痛の原因が特定されたのは1,598例(83.4%)(AHPは0例)、また診断不明の腹痛は317例(16.6%)だった。診断不明の腹痛の全例においてAHPの診断基準に含まれているいずれかの臨床所見が認められ、うち198例(62.5%)に尿検査が実施されていた。しかし、AHPを診断するための尿中アミノレブリン酸(ALA)および尿中ポルフォビリノーゲン(PBG)の測定は行われていなかったことが明らかになった。
原因不明の腹痛の定義を確立しAHP診断プロセスを一般化することが重要
「腹痛は誰にでも起こりうる一般的な症状で、激しい腹痛の原因疾患はさまざまだが、その中にAHPのような希少疾患が隠れていることがある。今回の研究結果からは、診断不明の腹痛の患者に対して、AHPを診断するための尿中ALA、PBG測定が一例も実施されていなかったことが明らかになり、臨床現場におけるAHPの認識の低さが重要な課題として浮き彫りになった。この課題を解決するためには、原因不明の腹痛の定義を確立し、AHPの診断に至るまでのプロセスを一般化することが、希少疾患であるAHPの適切な治療につながるものと考える」と、多胡教授は述べている。
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・Alnylam Japan 株式会社 プレスリリース