東アジアに多い出血性病変が目立つCADASILと、p.R75P変異との関連は?
国立循環器病研究センターは4月5日、新たな疾患概念「出血指向型CADASIL」を確立したと発表した。この研究は、同センター脳神経内科の石山浩之医師、齊藤聡医師、猪原匡史部長、京都府立医科大学脳神経内科の水野敏樹特任教授、慶應義塾大学神経内科の中原仁教授、韓国のアサン病院脳神経内科のキム・ヒュンジン医師らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Neurology」オンライン版に掲載されている。
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CADASIL(カダシル、皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体顕性脳動脈症)は、NOTCH3遺伝子変異が原因となり常染色体顕性遺伝形式で発症し、若年者における脳梗塞や認知症をきたす遺伝性疾患で、厚生労働省指定難病に定められている。CADASILでは、遺伝子変異によりアミノ酸が置き換わることで変異したNOTCH3タンパク質が、主に径の小さな血管(小血管)の壁に蓄積し血管の伸縮性が失われることで、ラクナ梗塞や側頭葉を中心とした白質病変などの虚血性病変が引き起こされる。
一方、ときに脳出血やその前駆病変である脳微小出血など出血性病変が目立つCADASIL症例が存在し、特に日本や韓国など東アジアでは欧米と比較してその頻度が高いことが知られ、何らかの遺伝的背景の違いがあると考えられていた。約300種類確認されているNOTCH3遺伝子変異のうち、東アジアで最も頻度の高い変異の一つである「p.R75P変異」は、欧米において報告がなかった。そこで研究グループは「NOTCH3遺伝子p.R75P変異はCADASILにおける脳出血病変と関連する」という仮説を立てて検証した。
通常のCADASILと異なり、p.R75P変異例では「側頭極病変」見られず
検証の結果、国立循環器病研究センターのCADASIL患者(63例)において、p.R75P変異例(15例:24%)は、年齢・性別・高血圧症の有無・抗血栓薬内服の有無で補正後も、有意に症候性脳出血、多発脳微小出血、側頭極病変がないことと関連した。同結果は、韓国アサン大学のコホート(全体55例、p.R75P変異13例:24%)でも再現された。
また、構造解析において、典型的なNOTCH3変異例ではNOTCH3タンパク質内のアルギニンから置き換わったシステインが外側に露出した構造を示した。システインはお互いに結合して凝集することから、典型的なCADASILでは凝集体を形成しやすいと考えられた。一方、p.R75P変異では、システインの露出はないが置き換わったプロリンが隣のシステインに影響を与えることで、典型的なCADASILより弱い凝集性を示すと考えられた。
病理学的評価において、p.R75P変異では、典型的変異例と比較して、変異NOTCH3の血管壁への蓄積は軽度(染色グレード中央値:0 vs. 2, P <0.001)だった。同結果は、構造解析から予測されたp.R75P変異による凝集の弱さと一致していた。
出血指向型CADASILの全貌解明が、「個別化医療」につながる可能性
今回の研究成果により、NOTCH3遺伝子の東アジアに特異的なp.R75P変異を有するCADASILでは「脳の出血性病変が目立つ一方で側頭極病変が乏しい」といった、従来認識されてきたCADASILとは一線を画す臨床的特徴が示されることが判明した。また、これらの臨床的特徴の違いが、遺伝子変異によるNOTCH3タンパク質の構造的な違いと、その結果として変異NOTCH3の血管壁への蓄積性の違いに起因する可能性が見出された。研究グループは同知見に基づき、CADASILの亜型として「出血指向型CADASIL, Pro-hemorrhagic CADASIL」を提唱した。
出血指向型CADASILは、CADASILとして認知することが難しく、若年性脳出血例に相当数が潜因している可能性がある。また、出血指向型CADASILの原因となるNOTCH3遺伝子変異はp.R75P変異以外に複数存在することが想定されており、その全貌を明らかにすることで、変異に応じた抗血栓療法の選択など、今後の個別化医療につながる可能性があると、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース