クッシング症候群の原因となるCPA、複数の遺伝子変異は報告されたが発生機構は不明だった
九州大学は4月3日、GNAS変異を有する副腎皮質内の微小病変として「ステロイド産生結節(steroids-producing nodule:SPN)」を世界で初めて発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の小川佳宏主幹教授、京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座の小川誠司教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻の鈴木穣教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「eBioMedicine」に掲載されている。
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副腎皮質は球状層、束状層、網状層の3層構造を形成し、3層特異的にステロイドホルモンであるアルドステロン、コルチゾール、副腎アンドロゲンを分泌する。これらのホルモンは、生命の維持に重要な役割を果たしている。副腎皮質に発生する腫瘍は、しばしばホルモンを過剰に産生する。ホルモンを産生する腫瘍のうち、最も頻度の高いコルチゾール産生腫瘍(CPA)はクッシング症候群の原因になる。近年、CPAの原因となる遺伝子変異が複数報告されたが、CPAの発生機構は明らかではなかった。
ステロイド産生微小病変SPN発見、GNAS変異獲得した細胞がCPAへと進展する発生機構を解明
研究グループは、遺伝子変異を有する前駆病変が副腎皮質内に存在すると想定し、CPAの発生機構を解明するために、CPAとともに手術で摘出された副腎皮質を解析した。
今回、副腎皮質の詳細な解析により、副腎皮質内にステロイドを産生する微小病変としてSPNを世界で初めて発見した。ゲノム解析の結果、SPNにおいてCPAの原因遺伝子の一つであるGNAS変異を同定した。興味深いことに、SPNは束状層様構造と網状層様構造による特徴的な2層構造を呈していた。RNAシーケンシング解析と空間トランスクリプトーム解析により、束状層様構造は細胞増殖を促進する作用を持つことが明らかになった。擬似時間解析から、SPNのうち束状層様構造がCPAに進展することが推定された。一方、網状層様構造はアンドロゲンにより誘発されるマクロファージを中心とした免疫応答により腫瘍の増殖を抑制する作用を持つことが示された。これらの結果から、CPAの発生機構として、GNAS変異を獲得した細胞がクローン増殖してSPNを形成し、束状層様構造の増殖作用によりSPNがCPAへと進展することが明らかになった。
SPNが形成する2層構造の解析から、副腎皮質の束状層と網状層の形成・維持にPKA経路が重要であると示唆
副腎皮質の構造と機能は動物の種類により大きく異なる。このため、ヒトの副腎皮質組織の形成・維持と萎縮副腎皮質の再生する分子機構の詳細は不明である。CPAに付随する副腎皮質は、CPAから産生される過剰なコルチゾールの影響で束状層と網状層が高度に萎縮している。萎縮副腎皮質内において、SPNは副腎皮質を再生するかのように2層構造を形成する。この2層構造の形成・維持には、GNAS変異によるPKA経路の持続的な亢進が関与することが明らかになり、副腎皮質の束状層と網状層の形成・維持にはPKA経路が重要であることが示された。
副腎皮質機能低下症の予防や治療への応用に期待
今回の研究により、CPAは、前駆病変であるSPNを経て発生することが明らかになった。興味深いことに、SPNの2層構造は腫瘍形成において、互いに拮抗する作用を持つことが示された。この研究成果は、副腎皮質腫瘍の発生機構の解明と治療法の開発に新しい知見をもたらすものと期待される。さらに、ヒトの副腎皮質層構造の形成・維持機構の解明に重要な手掛かりを示した。
ステロイド製剤は、自己免疫性疾患(関節リウマチ、膠原病など)やアレルギー性疾患(気管支喘息、アトピー性皮膚炎など)などの多くの疾患の治療薬として頻用される重要な薬剤である。一方、長期投与により副腎皮質が萎縮し、副腎皮質機能低下症を生じることが臨床的に大きな問題になっている。「本研究成果により、今後ヒトの副腎皮質層構造の形成・維持機構の解明が進み、副腎皮質の萎縮による副腎皮質機能低下症の予防や治療への応用が期待される」と、研究グループは述べている。
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・九州大学 研究成果